vol.81 クロドテンリュウ
岩田智宏さん、若山広光さん
新しいアイデアで機材を開発
世界へ発信するスマートワイナリー
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農産物を有効活用し、地元の名物にあわせたワインも醸造
2022年3月、飯田市にワインやブランデー、リキュールを製造販売するワイナリー「クロドテンリュウ」が誕生しました。
37年間、洋酒専門の酒類総合商社を営み、海外のワインやリキュール、ブランデーなどを輸入したり、フランスのワイナリーに間借りしてオリジナルワインを醸造してきた岩田智宏(ともひろ)さん(写真左)が、フランスの畑が高騰していく現状に「それなら日本でお酒を生産できるようにしよう」と開業した、飯田市初のワイナリーです。
「候補地は日本全国で探していたのですが、飯田市の行政の方がとても親身になって畑を探し、遠くの山々まで見渡せる見晴らしのよい真西向きの畑を紹介してくれました。ひと目で気に入り、この地で開業することにしました。南信州はいろいろな果物がたくさん採れて、とてもいい土地ですね。規格外の果物などを仕入れてブランデーやリキュールなどに加工することで農産物を有効活用し、地元のみなさんに喜んでいただけたらうれしいです」と岩田さんは語ります。
自身でもりんごや桃、シャインマスカットなど、さまざまな果物を栽培していますが、ワイン用ぶどうは標高の異なる圃場にそれぞれ、ピノ・ノワール、メルロー、ソーヴィニョン・ブラン、シャルドネ、ヴィオニエなど、多くの品種を植栽、飯田に適した品種や栽培方法を見極めています。
特にピノ・ノワールはクローンにこだわり、22系統のピノ・ファン(ピノ・ノワールのクローンの一種)も植栽しました。小粒で果皮が厚いことが特徴のひとつで、搾汁率は低くなりますが、濃厚で凝縮感のある果汁から良質なワインができるのではないかと岩田さんは期待しています。
飯田市は人口1万人あたりの焼肉店数が日本一といわれ、一家にひとつ焼肉のタレのレシピがあるともいわれるほど、焼き肉好きな人が多い町。そこで焼き肉に合うワインも造りたいと、シラーも植栽しました。
「輸入ワインの販売で、もともとつきあいのあった飯田市の焼肉店からもシラーのワインを造ってほしいと頼まれましてね」と、ほほえみます。
共同経営者の若山広光さん(写真右)は岩田さんの造るお酒の大ファンです。もともとマスコミでシステムエンジニアをしていましたが、体調を崩し、自分にあった働き方をしたいと思っていたときに岩田さんに誘われ、ワイナリーの道に。
「会社員時代『このお酒おいしい! 誰が造っているのだろう』と調べるうちに岩田さんの存在を知りました。彼の造るワインもリキュールも最高です」と、全幅の信頼を寄せます。
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生物学に基づき栽培し、新たな技術による合理化も追求
「ピノ・ノワールなどの欧米品種にはそれに適した栽培をしたい」と、フランス・ブルゴーニュ地方で行われている栽培方法を取り入れ、畝間2m、樹間1mと密植しています。樹高は、日本では通常90〜120cmの位置にぶどうが実るようにするところ、クロドテンリュウでは60〜90cmくらいのところに実るよう、低めに仕立てています。
日本は湿気が多いので、この方法だと収量が落ちてしまうのですが、幹から一番太い枝で栄養が送られることでぶどうの味が濃くなると考え、ぶどうの味を優先した仕立て方にこだわっています。
フランス・ブルゴーニュの栽培方法を踏襲する一方で、スタッフの少ない小さなワイナリーということもあり、より効率的においしいワインを醸造できるようにしたいと考えている岩田さんは、さまざまな文献や新しい研究データをもとに仮説をたてて機材を開発、自社畑で検証を行っています。
たとえば、なるべく農薬を使わないように防除は紫外線UVCランプをあてたり、光合成促進の光が出る素材のグローチューブを使って苗木の定着率をあげたり。木を支えるワイヤーは針金ではなく、たるまないようにステンレスのゲージを使い、支柱やトレリスもオリジナルです。
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醸造所内にも、岩田さんが開発した機材がそこかしこにあります。
「Slider of the day after tomorrow-700(夢が明後日へスライドする)」と名付けられた醸造タンクは、上部から螺旋状に液体を流すことができるジャケットをまとい、冷たい水や不凍液を流して冷やしたり、60℃くらいの液体を流して温めて発酵を止めることができます。通常のサーマルジャケットの倍量流すことができ、ワインのフラッシュ処理が可能なため清澄が早く、酒質の安定化にもつながります。
材料を保管するチャンバーは10℃からマイナス30℃まで対応できるように設計、ひとつの機材で冷蔵と冷凍が可能になりました。低温管理を大切に、醸造所内を1年中15℃に保つようにしていますが、各部屋の空調は独立したシステムなので乳酸発酵させたいときなどは、その部屋のみ暖かくすることも可能です。
現在もワイナリーのコンサルタントやアドバイザーをしている岩田さんは、ワイナリーが抱える悩みを聞くことも多く、その悩みを解消できるよう機材を開発、自身のワイナリーで検証を行った後に販売もしています。
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世界と肩を並べるワインづくりをめざして
2022年3月に醸造免許がおりると、2021年に収穫し、冷凍保存しておいたピノ・ノワールを解凍して醸造しました。「一度冷凍したものを解凍することで皮の繊維がほぐれて良い色がでました」と岩田さんは語ります。
清澄には卵白を使いました。赤ワイン1樽に卵白を大玉なら8個、中玉なら10個を5分立てに泡立ててワインに直接入れて混ぜるというフランスの伝統的な手法で、現在もフランスのシャトーなどで実際に行われています。卵白を使うことでアタックが丸くなり、若干、だしが効いているような味わいに。熟成が早く、時間が経つほど深みが出てくるのですが、度胸とリスクがつきまといます。そのためクロドテンリュウでは徹底した温度管理を行なっています。
栽培責任者で、シニア・ソムリエの後藤健二さんは「初ヴィンテージのピノ・ノワールは、ボディがしっかりしていて可能性の高さを感じました。10年くらい熟成させるとおもしろいワインになると思います」と期待を寄せます。
甲州でつくったオレンジワインは、ドイツのシュペートレーゼ(遅摘み)のハルプトロッケン(中辛口)を模して醸造しました。遅積みのぶどうを醸した後に冷却によって発酵を止め、果汁内の糖分を残すという方法を用いて造っています。
肉にも魚にも、和食にも洋食にも中華にも合うワインにしたかったので、カテキンを出すワインと、タンニンを出すワインをアッサンブラージュした、とのこと。
コ・イノキュレーションとよばれるマロラクティック発酵の新技術を用いて、乳酸とリンゴ酸を同時に発酵させることで酸味とまろやかさを両立させるなど、世界のトレンドも視野に入れて醸造しています。
「GIの取得や国内外のワインコンクールへの出品もして、受賞も目指します」と意気込みを語る岩田さん。飯田から世界に挑戦するスマートワイナリーの誕生です。
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(取材・文/坂田雅美 写真/平松マキ)
岩田智宏さん・若山広光さん
いわたともひろ・わかやまひろみつ
岩田智宏さん(左)。クロドテンリュウ代表。名古屋市出身。1985年、洋酒専門の酒類総合商社「ワインブティック ラターシュ」を創設。ワイン講師、ワインメーカー、蒸留技師、ワイナリーや飲食店のコンサルタントやアドバイザーなど、多くの顔を持つ。
若山広光さん(右)。クロドテンリュウ業務執行役員。茨城県出身。大手マスコミ会社のシステムエンジニアを経て、岩田さんの造るお酒に惚れ込みワイナリーの道へ。岩田さんのアイデアを実現するべくサポートしている。
岩田さんの初生産は1988年、フランスのエギュベル修道院でのリキュール。2018年、日本でワイナリーを開設したいと決意し、飯田市にてワイン用ぶどう栽培をはじめる。2022年3月、自社ワイナリー開設。名古屋と飯田の2拠点生活。