vol.76 Cave hatano 波田野信孝さん

顔の見えるお客様へ
自信をもって届けるワイン

vol.76 Cave hatano 波田野信孝さん<br><br>顔の見えるお客様へ<br>自信をもって届けるワイン

仮説に基づき実験と検証
すべてはおいしいワインづくりのために

波田野信孝さんが営む「Man Maru Noka(まんまるのうか)」が20179月にワイナリー「Cave hatano」を開設しました。

「おいしいワインは良いぶどうから」という信念に基づき、とくにぶどう栽培に力を注いでいるワイナリーです。ヴィラデストワイナリーも含めるとでワイン造り16年の経験があり、そのなかで感じた仮説をもとに日々研鑽を積んでいます。

年前からはじめた雨よけは「収量が確保できるし、防除に関しては農薬を減らせるのは間違いない」と波田野さん。

晩腐(ばんぷ)病や灰色かび病は、開花の時期に雨が降ることで、実がつく際に出る病気ですが、濡れなければ、かなり防げることがわかりました。有機栽培で使用が認められているボルドー液に加え、本当に必要なときだけ化学農薬を使うのみ。農薬の種類も回数も減らすことができました。
 

 
ところが雨よけは良い要素だけではありませんでした。実験を重ねて検証すると、雨よけをしていない場所と比べると、雨よけをした場所では、ぶどうがクリーンですっきりとした味わいになり、複雑味が薄れてしまうと感じました。

日本で一番おいしいワインをつくるため。ぶどうの完熟後も、おいしさがピークに達するまで限界を待って収穫していますが、そのタイミングが遅くなるほど病気は出やすくなります。

雨よけをして減農薬でも病気を減らし、ぎりぎりまで待ってすっきりとした味わいのぶどうにするのか。収穫量は減っても雨よけをせずに複雑味のあるぶどうにするのか。農薬の回数は減らしても収量を確保するため病気の出ない早めの収穫をするのか。研究はこれからも続きます。
 

 
除葉、剪定、収穫のタイミングなども実験していますが、どれも年がかり。何回もテストすることはできません。毎年天候は変わり、醸造の結果も加わるので判断は難しく、さらに土壌、水、空気、標高など、複合的要素もあり、自分なりに考えて答えを見つけなければなりません。

実験と検証を繰り返し、研究を積み重ね、「この土地では、こういうぶどうが採れればいい」というものがなんとなくわかってきたと波田野さんは語ります。「良いぶどうが収穫できれば、あとはそのぶどうに合わせて仕込みをしていけばいいだけ」

土地に適していればぶどうの糖分が上がり、酸は残ります。いい状態のまま醸造できれば、補糖や補酸などせずに醸造できます。またワインが瓶詰めした後に変質しないため、清澄作業を行うことは大切だと考えていますが、清澄剤を添加すれば味のバランスは崩れます。
 

 
1本1本しっかりと中身を確認して、少しでも心配なものは出荷しないようにしていますが、清澄作業を必要最低限しか行わないため、このやり方を理解してもらえる酒販店や直接連絡のあったお客様のみに販売しています。

相手の顔が見えると、その相手の評価も自ずと見えてきます。「今年もあの人に買ってもらえた」という喜びが励みになり、自信をもって販売できるワインをつくり続ける意欲につながります。だから栽培も醸造も販売も、すべて自分で行うことを信条にしています。

相手の顔が見えると、その相手の評価も自ずと見えてきます。「今年もあの人に買ってもらえた」という喜びが励みになり、自信を持って販売できるワインをつくり続ける意欲にもつながるので、栽培も醸造も販売も、すべて自分で行うことを信条にしています。
 

 
趣味は暮らすこと
自分や仲間がつくったものだけで暮らせていけたら

「ワイナリー開設は自分のやりたいことのひとつで、思いのほか大きくなってしまったけれど、ここが到達地点ではありません」と、波田野さんは笑います。

「自分の考えるライフスタルが体現できるのは百姓」との想いから、長野の四季に合わせて暮らし、梅がほころびはじめたら土づくりをはじめ、季節に合わせた野菜を栽培し、収穫する。加工用トマトをピューレにして保存したり、大豆を使って味噌づくりをしたり、薪ストーブ用の薪割りをしたり。

友人と一緒に米作りもはじめました。稲は水はけの良い畑を好むぶどうとは正反対ですが、両方を栽培することで見えてきたものもあります。多角的な視点でいろいろ追求することで、すべてのことに通じる自然の仕組みを感じて視野が広がりました。

「昔のお百姓のように自給自足とまではいかないけれど、仲間とお互いにつくったものを交換したりもしています。それだけで暮らしていけたら豊かですよね」
 

 
小諸市で、無化学肥料・無農薬栽培で野菜づくりをしている「たなかゆうのう」の田中英雄さんや、東御市で衛生管理の行き届いた農場HACCP認証農場を営む「信州峯村牛」の峯村誠太郎さんなど、それぞれの哲学をもってものづくりをしている仲間が近くにいることで、自分も中途半端なものづくりはできないと良い刺激を受けています。

飲食店のシェフに「良い野菜やお肉をつくっている人がいるよ」と紹介すると、シェフがおいしさに感動して取引がはじまり、仲間の食材を使ったメニューと自分のワインがペアリングで提供されることも。

「地元の飲食店のシェフが地元のいいものを一番よく知っていると思います。その時期に一番おいしいもの、いい農家も知っている。春は山菜、夏は野菜、秋はきのこや果物、冬は寝かせた根菜、それが一番おいしいし、豊かだと思います」
 

 
「お客様がシェフと一緒にワイナリーや畑を巡って、ワインのつくり手や農家との会話を楽しんだり、収穫体験後にレストランでその食材を使った料理とワインを楽しむことができて、宿泊までパッケージになったツアーやイベントがあったらいいなと考えています」

ホテルや飲食店が集まる軽井沢から東御市までは車で40分ほど。都心から訪れても、午前中からワイナリー巡りを楽しむことができます。中小規模のワイナリーが多く集まる東御市の良さを生かし、ワイナリーがそれぞれの場所で一定期間、同時開催のイベントもできると、アイデアは尽きません。

自給自足を目指し、地に足のついた暮らしをしながらも、波田野さんのまわりはいつも刺激的で、新しい挑戦と希望に満ちています。
 

波田野信孝さん

(はたののぶたか)

1983年、埼玉県鴻巣市出身。ヴィラデストで栽培と醸造を7年間担当した後、2012年、知人からワイン用ぶどう畑を引き継ぎ、翌年独立。初ヴィンテージは2013年。2017年9月、ワイナリー開設。ワインづくりで実際に体験し感じたことを綴ったブログ「醸造家のひとりごと」は必見。
https://www.c-hatano.com/blog/

Cave hatano

カーヴ ハタノ

住所|〒389-0501 長野県東御市新張5252-4
TEL|090-6936-9646
MAIL|nobutaka★c-hatano.com
(★を@に変えてください)
URL|http://www.c-hatano.com/
※ショップも含め来訪時は要事前連絡

取材・文/坂田雅美  写真/清水隆史
2022年03月07日掲載