vol.6 マンズワイン 小諸ワイナリー
島崎 大さん
世界に誇る日本のワイン
その名は「ソラリス」
善光寺ぶどうの発見と
小諸ワイナリー開設
マンズワインはキッコーマン株式会社の子会社として、1962(昭和37)年に設立された「勝沼洋酒株式会社」を前身とします。当時の社長はもともと「吉幸食品株式会社(現在の日本デルモンテ株式会社)」の社長であり、加工用トマトの育成に力を注いでいました。
当時の社長がトマト畑の視察をしようと長野市の善光寺近くを訪れた際、農家の軒先に植えられた立派なぶどうの木が、大粒の実をたわわに実らせているのを見つけます。このぶどうのことを「酒の博士」として知られた東京大学の坂口謹一郎名誉教授にたずねると「いいワインができると思うから試したらどうか」と言われ、試作を重ねたそうです。
やがて「善光寺ぶどう」またの名を「竜眼」というこのぶどうから、高品質のワインがつくられることが分かり、上田市塩田地区に契約栽培地が設けられます。1973(昭和48)年には、勝沼の本社工場とは別に小諸ワイナリーを設立。その周辺にも契約栽培地が広げられました。
もともと善光寺ぶどうのワインづくりから始まった小諸ワイナリーですが、現在はソラリスなど高級ワインの生産に特化し、勝沼ワイナリーでは大量生産を担っています。手作業で丹念に除梗を行い、発酵タンクを小型化して畑の区画ごとにロットを分け、仕込みから流通まで温度管理を徹底するなど、より良いワインづくりのための配慮が行き届いています。
プレミアムワイン
「ソラリス」の誕生
現在、ぶどうの栽培地は、小諸ワイナリー周辺とその西方にある大里地区、上田市の塩田地区とその一角にある東山地区、さらに長和町に広がります。栽培品種はメルローやシャルドネ、ソーヴィニヨン・ブランなど、ヨーロッパ系のぶどうへ推移しました。
なかでも東山地区のカベルネ・ソーヴィニヨンは出色の出来栄えで、その収量基準はボルドーに匹敵するとのこと。「東山カベルネ・ソーヴィニヨン」は、「小諸メルロー」「小諸シャルドネ」と並ぶソラリスの旗艦銘柄となっています。
ソラリスシリーズは2001(平成13)年に販売を開始しましたが、世界に通用するワインづくりへの試行錯誤は、すでに半世紀前から始まっていたと、ソラリス醸造責任者を務める島崎大さんは言います。
「栽培技術や、ぶどうを交配して品種そのものを改良しようとか、レインカットという栽培方法もあって、1980年代には非常に良いぶどうができるようになっていました」
独自の交配によって生まれた品種に「信濃リースリング」や「浅間メルロー」があります。また「レインカット方式」とは、マンズワインが独自に開発した技術で、従来の棚づくりから垣根づくりにし、垣根全体にシートをかけて雨がぶどうに直接当たるのを防ぐというもの。これによってぶどうを腐敗させずに、完熟するまで収穫を待つことができるようになりました。
「一番はぶどうです。そのポテンシャルを最大限に引き出してやるのが、醸造に携わる者の仕事です」
歴史あるワインづくりの
今を担う者として
島崎さんがワインに興味を持ったのは、中学生の頃。1970年代初頭、第一次ワインブームと呼ばれる時期と重なります。家に届く頒布会のワインに同梱された冊子を手にしたことがきっかけでした。
そこからワインに興味を持ち、本を読んで独自に学び、山梨大学の発酵生産学科に進み、入社後は機会に恵まれて本場フランスでワインづくりを学びます。語学の壁に苦しみながらも、理系の知識(島崎さん曰く「化学式は万国共通」)とワインづくりの経験を生かしながら、ボルドー大学の利酒適性資格とフランス国家資格であるワイン醸造士資格を取得します。
「私の前にもボルドーで学んでワインをつくってきた先輩がいました。そういう人たちの経験とか失敗とか、いろんなことの積み重ねの上に今があります。その恵まれた環境を最大限に生かして、世界の銘醸ワインに負けないワインをつくるのが、ソラリスの目指すところであり、私の目標でもあります」
先人から渡されたバトンならぬ櫂を手に、島崎さんのたゆまぬワインづくりは続きます。
(取材・文/塚田結子 写真/平松マキ)
島崎 大
しまざき だい
1961(昭和36)年、東京都生まれ。83(同58)年に山梨大学卒業後マンズワイン株式会社入社。ボルドー大学ワイン醸造学部で学び、利酒適性資格とワイン醸造士国家資格を取得。現在マンズワイン株式会社の取締役品質管理部長、研究開発部長、ソラリス醸造責任者を務める。