vol.56 坂城葡萄酒醸造
成澤 篤人さん

地元、坂城で家族や仲間と
ともにつくるワイン

vol.56 坂城葡萄酒醸造<br>成澤 篤人さん<br><br>地元、坂城で家族や仲間と<br>ともにつくるワイン

生まれ故郷にワイナリーを設立

2018年、七夕(しちせき)の節句、坂城町にはじめてできたワイナリーがお披露目されました。長野市内で飲食店を経営する成澤篤人さんが、生まれ故郷につくった「坂城葡萄酒醸造」です。併設するレストラン「Vino della Gatta SAKAKI(ヴィーノ・デッラ・ガッタ サカキ)」とともにオープンし、すでに自社ワインの初仕込みを済ませ、巨峰、シャインマスカット、りんごのワインをリリースしました。

初仕込みを終えて赤ワインは樽で熟成中、リリースの時を待つ
「いずれ委託醸造も引き受けていく」と醸造担当のハワードかおりさん

成澤さんは2009年、長野市内にイタリア料理店を開店してから、いち早く自店に長野県産ワインをそろえ、その魅力を発信してきました。2013 年からはNAGANO WINE応援団運営委員会の代表として数々のイベントやセミナーを開催し(2018年度で代表は移譲)、また「長野ワイン」を紹介する本を執筆するなど、長野県産ワインの普及振興に努めてきました。

ワインについて学びながらシニアソムリエの資格を取得し、ワイナリーを訪ねてつくり手との対話を重ね、時に畑を手伝い、そこから知り得たことをワインにのせて広く伝えてきた一方で「それらは他人から得た情報でしかない」と感じていたと成澤さんは言います。

「もっとワインのことを深く理解したい」という思いは、「畑に苗木を植えてワインをビン詰めするところまで、すべて自分の手でやるしかない」という実行へと移されます。

ときに畑に立ったり、レストランに立ったり、イベントにも登場したりと、大忙しの成澤さん

まずは2011年に地元である坂城町に、親戚の手を借りてカベルネ・ソーヴィニヨンを植えました。2012年から「坂城町ワイナリー形成事業」が開始され、その試験圃場を北村智洋さんが任されることになります。北村さんはワイナリー設立とともに「坂城葡萄酒醸造」に合流して栽培責任者を務め、妻の智香さんとともに栽培部門を担っています( 北村さんの過去の紹介記事はこちら )。

2013年には坂城町が「ワイン特区」に認定され、小規模ワイナリーが設立しやすくなりました。そして2015年、成澤さんは東御市のアルカンヴィーニュが主催する「千曲川ワインアカデミー」の1期生となります。ここで10カ月間にわたってワインづくりについて学んだ内容は、当サイトで 特集記事として掲載 しています。

カリフォルニアから坂城へやってきた醸造家

醸造責任者を務めるハワード・かおりさんは、名古屋市の出身です。名古屋大学農学部生命農学研究科に学び、大学院で農学修士を取得後、スタートアップ企業のインターンとしてサンフランシスコへわたります。そこで出会ったハワードさんと結婚し、ナパへ移り住みました。そしてナパと隣り合うソノマの「Benziger Family Winery(ベンジガーファミリーワイナリー)」へ就職します。

カリフォルニア州はアメリカにおけるワイン生産量の9割を占めるワイン産地で、ソノマはカリフォルニアワイン発祥の地です。それまで、さほどワインに興味のなかったかおりさんですが、品質管理や分析に携わるうち「ワイン作りが楽しくて、居ついてしまった」と言い、そこで12年間勤めます。

その間に二児の母となり、一度は日本で生活したいと思っていたかおりさんは、子どもの小学校入学を機に帰国を決意。ワインに携わる仕事をさがすなかで長野県のワイン振興を知り「移住・交流サポートデスク」でNAGANO WINE応援団を紹介されます。それが2018年2月のことでした。

前列左から成澤さんの妻、有希子さん。畑仕事から裏方まで、何でもこなす働き者。成澤さんの右側が栽培責任者の北村智洋さんと妻の智香さん。智香さんはみんなから「ねえさん」と慕われるしっかり者。後列左から醸造責任者のハワードかおりさん、シェフの小出克典さん、醸造部門の小山晃司さん

当時すでに成澤さんはワイナリー設立の準備を進めており、醸造を任せられる人をさがしていました。計ったようなタイミングでの出会いに、かおりさんのなかに不安はあったものの、まだ建屋もないワイナリーへの入社を決意。家族そろって坂城町へ移住しました。

「ここでしか飲めないワインもありますから、まずは地元のみなさんが飲んでくださるように。そして、コンシューマー目線も大事ですが、小規模ワイナリーであることを生かして、自分たちが飲みたいワインを作りたいです」とかおりさんは言います。

かおりさんとともに醸造を担うのが小山晃司さんです。小山さんはもともと坂城町の和平高原でりんご栽培やみそ醸造に従事していましたが、一貫してものづくりに携わりたいと東御市のワイナリーに転職。そこで栽培から醸造、営業まで、ワインにまつわるあらゆることに携わりました。成澤さんが地元にワイナリーを設立することを知り、帰郷。今では北村夫妻とともに畑に立ちつつ、醸造部門を支えています。

2018年のボージョレ・ヌーボーに合わせてリリースされた「巨峰葡萄酒」。酸のしっかりしたキリッとした仕上がり。販売後、間もなく完売した
これまでリリースしてきた銘柄の数々。「ミケ」「タマ」「トラ」などと名づけられた畑は合わせて3ヘクタールまで広がり、栽培品種はカベルネ・ソーヴィニヨンのほか、メルロー、ピノ・ブラン、リースリング、ソーヴィニヨン・ブラン、カベルネ・フランなど多岐にわたる

栽培・醸造・飲食各部門の仲間とともに

ワイナリーに併設するレストラン「Vino della Gatta SAKAKI」シェフの小出克典さんは、長野市川中島町の出身で、成澤さんの義弟にあたります。

2009年に成澤さんとともに長野市に「オステリア ガット」を開店し、2013年には2号店となる「ラ・ガッタ」を開店。両店のシェフを歴任しました。2018年のワイナリー設立に合わせて坂城町に移住し、自社3店目となるレストランのシェフとなりました。

小出シェフは「坂城とはいえ、食材に困ることはありません」と言い、食材に地のものを取り入れながら、「わざわざ坂城まで足を運んでくださるお客さまをもてなしたい」と語ります。「自社のワインは自分の料理との相性がいい」と自負する小出シェフの味を求め、レストランはすでに予約必須の人気です。

レストラン入り口で坂城町出身の画家、小松美羽さんが描いた壁画が迎える

飲食部門には、ほかに「オステリア ガット」「ラ・ガッタ」「粉門屋仔猫」各店を担う仲間がいます。収穫の際にはレストランスタッフが畑に立ち、イベント時にはワイナリースタッフがブースに立ちます。

そして栽培、醸造、飲食、各部門の彼らをゆるく束ねているのが成澤さんです。飲食店オーナーとして、ソムリエとして、生産者と消費者の間に立って長野県産ワインの魅力を伝えてきた人は、畑に立つことが増え、日に焼けたその顔は、すっかり生産者らしくなってきました。

(取材・文/塚田結子 写真/宮地晋之介 外観と成澤さんの写真/長岡竜介)

成澤 篤人

なるさわ あつと

1976年、長野県小県郡坂城町生まれ。2009年、義弟の小出克典さんとともにイタリア料理店「オステリア・ガット」を長野市内に開店。2011年に坂城町にワイン用ぶどうを植樹。2013年、「ラ・ガッタ」「粉門屋仔猫」を開店。同年、「NAGANO WINE応援団運営員会」を結成し、初代代表となる。2015年に「千曲川ワインアカデミー」の一期生となる。2017年、坂城町に「坂城葡萄酒醸造」設立。2018年にワイナリー併設のレストラン「Vino dela Gatta SAKAKI」を開店した。

坂城葡萄酒醸造

さかきぶどうしゅじょうぞう

所在地 長野県埴科郡坂城町坂城95781
TEL   0268-82-2208
URL  坂城葡萄酒醸造

2019年01月18日掲載