vol.54 MOTHER VINES長野醸造所
石塚 創さん
ワインづくりを志す人に寄り添う
母樹という名のワイナリー
ワイナリーのコンサルティング会社が行うワイン醸造
2018年4月、長野県の高山村に、村内4軒目となるワイナリーができました。「MOTHER VINES(マザーバインズ)」は東京に本社を置く、国内唯一のワイナリーのコンサルティング会社です。
醸造設備や資材の供給、苗木の生産、ワイナリー建屋の設計を事業の柱とし、ワイナリー設立を目指す人のため、ワインづくりのあらゆる支援を行っています。
高山村は、果樹の生育に適した気候のもと、すでに高品質なワイン用ぶどうが作られており、官民が一体となって産地形成を進めるワイン先進地として認知されています。
これからも村内で新たなワイナリーができることを見込んで、「マザーバインズ長野醸造所」が設立されたのです。とはいえ施設はあくまでも委託醸造専門の看板を掲げています。
「試験醸造のため、そして穂木を作る苗木生産のためのぶどう畑はもつ予定ですが、自分たちのブランドは作りません」と語るのは、ワインメーカーとして勤務する石塚創さんです。
東京から北海道へ、そして高山村へ
石塚さんは東京都のご出身です。専門学校で醸造を学び、卒業後は北海道に当時できたばかりのワイナリーへ就職しました。そこで、ぶどう栽培とワイン醸造に携わり、醸造責任者も務めました。
長野県産ワインの動向については、かねてから注目しており、高山村へ視察に訪れた際は、「役場の方の理解が深く、村全体の熱心さを感じた」と言います。
地域特性を見極めて、どんなワインに仕上げるのか。また、作ったワインをどうやって販売していくのか。全国に展開する企業ならではの情報力と流通網を生かした支援を行う一方で、個人的には、特に分析と研究に注力していきたいと石塚さんは考えています。
「私たちのもとには国内だけでなく、海外からの情報も入ってきます。そういった情報をみなさんと共有していきたいです。世界と戦えるワインを作らないと、ワイン愛好家の数は増えないですから」
飲み手も含め、ワイン業界全体でボトムアップしていくことが大切だと石塚さんは言います。
高山村の循環型農業
「ぜひ、見ていただきたい施設があります」と言われて、石塚さんの乗る軽トラックについていった先には、高山村が運営する「地力増進施設」がありました。
ここでは、村内の一般家庭から持ちこまれた生ごみや、農家などから持ちこまれた農産廃棄物を発酵させ、堆肥へと作り変えています。ワイン醸造の際に出るぶどうの搾りカスもまた、ここに持ちこまれているのです。
「高山村では循環型農業を実践しているんです」と石塚さん。そして「ワインづくりだけでなく、ここでの取り組みを知っていただきたい」と言います。
資源を循環させて地力を上げ、そして、この地で育まれたぶどうが高品質なワインとなる。ワイン先進地、高山村の底力を見る思いがしました。
(取材・文/塚田結子 写真/宮地晋之介)
石塚 創
いしづか そう
1986年生まれ、東京都出身。醸造の専門学校を卒業後、北海道のワイナリーで栽培、醸造に携わる。2017年からマザーバインズに勤務。2018年、長野醸造所の設立に合わせて高山村へ。 一般社団法人エノログ部会認定エノログ。右は、ともに働く平出亜紀子さん。