vol.52 GioHills Winery
富岡 隼人さん
清しい風吹く丘の上のワイナリー
念願の自社ワイナリーを立ち上げ
2018年8月末、小諸市にある老舗の温泉宿「中棚荘」が、念願のワイナリーを立ち上げました。御牧ケ原の丘の上、みまき大池のほとりに立つ建物は、1階が醸造所、2階がカフェになっています。
名称は「GioHills Winery(ジオヒルズワイナリー)」といいます。「Gio」はベトナム語で「風」の意味をもち、つまり「GioHills」とは「風の吹く丘」の意。
「御牧ケ原の台地で育ったぶどうがワインとなり、風にのって多くの人に届くように」との思いが込められています。
2階からの眺望が素晴らしく、間近に浅間山の山容、遠く北アルプスや八ヶ岳の山並み、はるかに富士山も望みます。そして夜になれば眼下のぶどう畑の向こうに佐久平の夜景が広がります。
カフェは11月1日にオープンし、ベトナム料理を中心とした創作料理を供し、しばらくは金曜から日曜のランチと、平日のカフェの営業を行います。
1階ではすでにワインづくりがはじまっており、新品のステンレスタンクでは、自社での初仕込みとなったシャルドネ、メルロー、ピノ・ノワールがそろそろ発酵を終えようとしていました。
自社産ワインでお客様をもてなしたい
中棚荘では、5代目荘主、富岡正樹さんの手により2002年からぶどう栽培が行われてきました。
2007年にはマンズワインにシャルドネを委託醸造して、オリジナルの銘柄「中棚シャルドネ」が完成しました。翌年にはメルローを定植し、2011年から「中棚メルロー」をリリースしています。
そもそもは「宿を訪れるお客様を小諸の風土で育った農産物でもてなしたい」という思いから、中棚荘と、併設の食事処「はりこし亭」で使うそばや小麦、そして野菜も極力自社農園で栽培したものを使っています。
その料理に合わせるため、小諸のテロワールをよくあらわすワインをつくりはじめたのです。
2009年にはピノ・ノワールを定植し、2017年にようやく収量がまとまって、委託先のアルカンヴィーニュで初の単独仕込みを行いました。しかも野生酵母での天然醸造。
いよいよ自社醸造となった今年は、培養酵母での仕込みとなりました。「まずは様子を見て、いずれはまた野生酵母で仕込みたい」と醸造責任者であり、正樹さんの三男の隼人さんは言います。
ベトナムから帰国、そしてワインづくりへ
隼人さんは20歳のとき、NGO活動のためにベトナムの古都フエへ日本語教師として赴任し、2010年から5年間を過ごしました。
当時は自分が何をやりたいのか、よくわからず、進むべき道を模索していた隼人さんですが、ベトナムでの5年間をとおして自分自身と生まれ育った環境を見つめ直すことができました。
宿を切り盛りしながら畑を耕し、ぶどう栽培まではじめた父、正樹さんの存在はやはり大きく、「父はなんでも自分でやってしまう人。よく覚えているのは、バックホーで整地する父の背中に負ぶわれていたことです」と隼人さんは言います。
2015年には国際情勢の影響もあって帰国を余儀なくされ、また同年、東御市のアルカンヴィーニュが「千曲川ワインアカデミー」を開講することになりました。正樹さんからの「帰国したら一緒にワインを作ろう」という言葉を、隼人さんはすんなり受け入れることができました。
そして隼人さんはアカデミーの一期生となり、さらに12月にはベトナムからミーさんを伴侶として迎えました。今では迷うことなく両親と兄姉夫婦、そして妻とともに家業を盛り立てながら、ワインづくりに邁進しています。
「中棚荘のお客様にワイナリーや畑へ足を運んでもらうだけでなく、近隣のワイナリーにも足を伸ばしていただく。そうやってつながっていけばいいですね」
隼人さんの志はすでにワインづくりだけでなく、ワインを介した地域文化の醸成へと向けられています。
(取材・文/塚田結子 写真/宮地晋之介)
富岡 隼人
とみおかはやと
1990年、小諸市生まれ。老舗の温泉宿「中棚荘」5代目荘主の三男。2010年から5年間、ベトナム・フエ市で小山道夫さんが設立したストリートチルドレンの保護・教育施設「子どもの家」でボランティア活動を行う。2015年、帰国後、東御市・アルカンヴィーニュが主催する「千曲川ワインアカデミー」の一期生としてワインづくりを学ぶ。2018年、「GioHills Winery」設立、醸造責任者となる。