vol.49 信州たかやまワイナリー
鷹野 永一さん
人々の思いをつなげてワイン産地へ
高山村待望のワイナリー設立
国産ワインコンクール金賞受賞をきっかけに、高山村がシャルドネの産地として名を馳せたのが2004年、今から14年も前のこと。
カリスマ栽培家とも呼ばれる人を擁し、2006年には「高山村ワインぶどう研究会」が立ち上げられ、後進となる栽培家が集まり、そして育っていきました。
2011年には東御市に次いでワイン特区の認定を受け、2013年には「高山村ワイナリー構想協議会」が設立され、村をあげてワイン産地形成への機運が高まっていきます。
2015年、高山村ではワイン専門の職員を採用し、翌年には村の支援のもと、13人のぶどう栽培者が出資して「信州たかやまワイナリー」が設立されました。
ワイナリーが立つのは標高680mの黒部地区。2014年から整備の始まった圃場に囲まれ、北信五岳と北アルプスを望みます。
いつか自分たちの育てたぶどうでワインを作りたい。
農家の人たちの思いがつながって、いよいよこの絶景の地で、村産ぶどうを原料にしたワイン造りがはじまりました。
遊休農地をよみがえらせ、3haほどだったぶどう畑は、今では50haにまで増えています。そして村内には信州たかやまワイナリーのほかに2軒のワイナリーができています。
高山村を一番長く見てきた醸造家
ワイン造りを担うのが鷹野永一さんです。村のワイン専門職員として採用された後、ワイナリー設立とともに取締役に就任し、醸造責任者となりました。
鷹野さんは大手ワインメーカーでワイン製造に携わってきました。産地と結びついた商品の開発に際しては、技術者として高山村を訪れます。鷹野さんは長らく、醸造するメーカーの立場で高山村のシャルドネに関わってきたのです。
ラベルやキャップシールの生産調整にはじまり、新酒のブレンド、品質管理、製造計画、設備導入、そして仕込み統括まで、ワイン製造のあらゆることを経験してきました。
作りたいワインが思うように作れる立場と環境にある一方で、ワイン産地の形成に関わりたいとの思いもありました。
「1ワイナリーがいくら良いワインを作っても、世界にアイデンティティは示せない。まずはワイン産地をつくることが大事」
師と仰ぎ、麻井宇介のペンネームで知られる浅井昭吾さんのそんな言葉が鷹野さんの胸にあったのです。
高山村でなら、それが実現できる。
「長く見続けてきて、この地のポテンシャルはわかっていました」
鷹野さんには確信がありました。
産地形成には、何より人が大事
ワイナリー設立後に初仕込みが行われ、2017年にファミリーリザーブ「Nacho(ナッチョ)」、続いてヴァラエタルシリーズのソーヴィニヨン・ブランとシャルドネが初リリースされました。
さらに2018年2月には「メルロー&カベルネ」が加わりました。
「なっちょ」は長野県北部の方言で「どう?」という意味。このワインを手に「元気?」「一杯どう?」とやりとりされることを願って名づけられ、白、ロゼともに1500円で村内限定販売されました。
「産地づくりには、良い作り手と良いワインだけでなく、良い飲み手が必要です。村の人が親しみやすいように、そして村の誇りとなるように」
そんな思いを込めたワインは、あっという間に完売しました。
「まずは高山村に来てもらうことが大事。どんな場所で、どんな人が作っているのか見ていただく。そして一緒に高山村のワインを高めていただきたい」と鷹野さんは思いを語ります。
ぶどうを作る人、ワインを作る人だけでなく、ワインを飲む私たちも産地づくりに関わっていくことができる。それはなんと豊かなことでしょう。高山村でなら、それができるのです。
(取材・文/塚田結子 写真/平松マキ)
鷹野 永一
たかの えいいち
1966年、山梨県甲府市生まれ。山梨大学工学部発酵生産学科を卒業後、大手ワインメーカーに入社。醸造や商品開発に携わる。2016年、株式会社信州たかやまワイナリー取締役執行役員、醸造責任者を務める。
株式会社 信州たかやまワイナリー
かぶしきかいしゃしんしゅうたかやまわいなりー
所在地 長野県上高井郡高山村高井裏原7926
TEL Tel & Fax 026-214-8726
URL 信州たかやまワイナリー