vol.41 うさうさのプチファーム
中村 智恵美さん

富士の雫、北天の雫、ケルナー
冷涼な気候を生かしたぶどう栽培

vol.41 うさうさのプチファーム<br>中村 智恵美さん<br><br>富士の雫、北天の雫、ケルナー<br>冷涼な気候を生かしたぶどう栽培

ぶどう畑で遊んだ少女は、ワインぶどうの作り手に

ぶどうの産地・塩尻で生まれ、ぶどう畑は身近な遊び場だったという中村智恵美さん。ワインが大好きな大人になり、主婦として家庭を守ってきました。
そんな中村さんに大きな転機が訪れたのは11年前です。夫の転勤に伴い須坂市に住んだ折、発足したばかりの信州高山村ワインぶどう研究会に入会。さまざまな勉強会やイベントが行われるなか、中村さんはワインぶどう栽培を志すようになります。

「主人の実家が大町にあり、その冷涼な気候を生かして、北海道で作られているようなドイツ系品種を栽培したいと思ったんです」

しかしすぐには大町に農地を持つことはできず、池田町ワイン&ハーブアカデミーに参加。ご縁のできた池田町で、念願のワインぶどう栽培をスタートしました。
植樹したのは「富士の雫」。ぶどう交配育種の第一人者であり、同アカデミーの講師でもある志村富男さん(志村葡萄研究所・山梨県笛吹市)が、カベルネ・ソーヴィニヨンとヤマブドウを交配した新品種です。

念願の大町では、一度はスキー場跡地に苗木を植えますが、寒すぎたこともあって別の遊休農地に移転するという苦難に遭遇。
今は2反歩の畑にケルナーと「北天の雫」を栽培しています。北天の雫も志村さんが開発したもので、リースリングとヤマブドウの交配種です。

真夏もさわやかな風が吹き渡る大町市のぶどう畑
リースリングとヤマブドウを交配した「北天の雫」が栽培されている

自分が家で飲みたいワイン

あまり聞きなれない品種を栽培するのは「自分だけのワインを作りたかった」のに加え、「自分が家で飲みたいワインをイメージして」とのこと。では、中村さんに自家栽培3品種の味わいや特徴を紹介してもらいましょう。

「富士の雫は、ヤマブドウの濃厚なポリフェノールとカベルネ・ソーヴィニヨンの旨味を併せ持ちます。渋みが少なく、日本の家庭料理に合わせやすいワインになります。2013年に初醸造し、2015年から伊那ワイン工房で醸造し、品質も安定してきたので、栽培地の地名にちなんで『渋田見ルージュ』と名づけました」

「ケルナーは、北海道で多く栽培され、しっかりした酸味と独特の芳香を持つぶどうです。透明感のあるさわやかなワインになります。初めて、2015年産を伊那ワイン工房で作ってもらったら、すっきりきれいな酸があり、ケルナーの良さが生きていました。木が若いので味の奥行はありませんが、さわやかなワインに仕上がりました」

「北天の雫は、名前からして大町にふさわしいでしょう。リースリングを病気に強くするため、ヤマブドウと交配した品種です。キウイやサルナシのような酸味があり、さわやかで独特の香りのあるワインになります。まだ栽培量が少ないので、ワイン醸造は試験段階です」

ワイン工房兼農家民宿として
ワイン醸造をめざす

2010年に「うさうさのプチファーム」を立ち上げて、足掛け7年。2016年春、中村さんは千曲川ワインアカデミーで栽培と醸造を学び始めました。
ぶどうの生産量が少なく、ワインの生産量も限られるので、「ハウスワイン特区」の制度を活用して、ワイン工房兼農家民宿を営むつもりです。
どぶろく特区と同様、醸造したワインを民宿以外で販売することはできませんが、自家醸造が可能になります。

「私ひとりで、栽培も、醸造の勉強も、ハウスワイン特区の申請も行っているので、時期は2年ほど先」になる見込み。
「大町に工房兼民宿を構え、栽培・醸造に取り組もうと思います。あまり機械を使わず、お客様とみんなで除梗したり、搾ったり、小さな工房で楽しんでワインを手作りしたいですね」

「いずれ主人が定年を迎えるので、ふたりでうさうさのプチファームに取り組めるのが楽しみです。子どもたちからは『お父さんはお母さんの部下になるんだね』と言われています」

中村さんはワインだけでなく、ワインぶどうのジュースも生産。もちろん自家栽培100パーセントで、ぶどうジュース赤は富士の雫、ぶどうジュース白はケルナーと北天の雫のブレンドです。
ワイン・ジュースは同ファームおよび通販で販売。ジュースは池田町道の駅・池田町ハーブセンター、道の駅・安曇野松川、いーづら大町特産館、横川商店(大町市)でも購入できます。ただし、完売の時期も多いのであらかじめお問合せを。

左から富士の雫のワイン「渋田見ルージュ」、ぶどうジュース白、ぶどうジュース赤。ケルナーと北天の雫をブレンドしたジュース白は、桃ジュースのような風味が特徴。(ワインは2015年産がリリースされるまで在庫なし)
(取材・文/平尾朋子  写真/平松マキ)

中村 智恵美

なかむら ちえみ

1959年塩尻市出身。夫の転勤先の須坂市在住の2005年に、信州高山村ワインぶどう研究会に入会し、ぶどう栽培に目覚める。2010年にうさうさのプチファーム設立。ワインぶどう農園は2カ所あり、大町市に「北天の雫」とケルナー、北安曇郡池田町に「富士の雫」を栽培する。冷涼な気候と雄大な北アルプスを望む地勢を活かしたワインを作るべく奮闘。現在、ハウスワイン特区での醸造に向けて、大町と池田町で申請中。

うさうさのプチファーム

所在地 長野県大町市大町2194-1(畑の所在地)
TEL 090-2240-7060
URL うさうさのプチファーム

*うさうさのプチファームの名前は、江口真代(みのり)さんによるうさぎの彫刻にちなむ。ボトルラベルにもうさぎが使われ、ほのぼのとした雰囲気を醸し出している
2016年07月26日掲載