vol.3 はすみふぁーむ
蓮見 よしあきさん
ワインづくりとまちづくり
この地をもっと元気にしたいから
ワイン特区制度を活用して
誕生した小さなワイナリー
蓮見よしあきさんとワインとの出会いは、10代で渡米し、大学卒業後にアメリカ大リーグの球団職員として働いていた頃。「ナイターのあとに食事に行くんですが、カリフォルニアだったので、お酒といえばワインを飲むんです。おいしいと思って、自分でいろいろ調べていくうちに興味を持って、ワインづくりを学ぶための学校に入りました」
帰国後に就職した栃木県のワイナリーでは、栽培から醸造、そして販売まで、ワインづくりのひととおりを経験しました。やがて独立を志して土地を探し求め、東御市に辿り着いたのが2005年のこと。
「ここは標高が高くて乾燥しています。だからぶどうが病気になりづらい。日本のなかではワイン用ぶどうを栽培するための環境が整った地です。それから東御市は新規就農者の受け入れ態勢が整っていました。それもここを選んだ理由のひとつです」
蓮見さんは身ひとつで遊休荒廃地の開墾に取り組みます。「潤沢な資金があるわけでもなく、人のつながりがあるわけでもなく。マイナスからのスタートでした」
苦労の末、委託醸造で仕込んだファースト・ヴィンテージが2009年のピノ・ノワールとシャルドネ。そして2010年にはワイン特区の制度を活用して、念願の自社ワイナリーを設立しました。
地域の活性化のために
ワインづくりを通じたまちづくり
蓮見さんは東御市の市議会議員でもあります。2008年に初出馬して当選、現在は2期目を務めています。
「ツテも何もないままこちらへ来て、地域のおじいちゃんおばあちゃんにいろいろと面倒を見てもらいました。そういったお世話になった方のお役に立ちたいという思いがまずあります。それから農業を通じていろいろやっていきたい。この地域が活性化すれば、交流人口が増えて、お金が落ちるでしょう」
遊休荒廃地を耕してぶどう畑をつくること、農政の立場から提言していくこと。蓮見さんにとってはどちらもワイナリー経営に直結すること。そしてこの地域をもっと元気にするための取り組みでもあります。
「ワイナリーは地域密着の産業です。たまたま私のワインをきっかけに、軽井沢からこちらまで足をのばしてくれる方がいらっしゃる。そういう方にワイナリーで好きなワインをテイスティングしてもらって、地元のレストランで食事をして、上田の観光地や温泉へ行ってもらう。そうやって農業を通したまちづくりをやっていきたいと思っています」
その思いを具現するように、2012年に上田市柳町にワイナリーの直営店をオープンさせました。旧北国街道沿いの風情ある街並の一角、蔵造りの建物を改装した店では、ワインのほかジュースやジャム、雑貨などオリジナル商品の販売を行っています。
持続可能な農業経営と
地元の人に愛されるワイン
現在では法人化して社員は4名になりました。畑は少しずつ広がり、今では軽トラックで10分で回れる範囲に5つあります。
「それでもうちはまだ、たぶん長野県で一番小さいワイナリーです。ほとんどが手作業で、昔ながらのやり方でワインをつくっています。少しずつグレードアップはしているんですけど、まだまだ道半ば。先は長いですね」
2013年5月に、蓮見さんのこれまでの経験とノウハウすべてをまとめた『ゼロから始めるワイナリー起業』という著書が出版されました。もっと多くの人が農業に携わり、ワイナリー経営に乗り出せるように。そしてワイナリーを核に地域全体が活性化するように。蓮見さんの「農業を通じたまちづくり」の思いは、ここにも詰め込まれています。
「ちっちゃいながらもここまでやってきたので、これからはもう少し組織化して、持続可能な農業経営ができるようにしていきたいです。ぶどうの木を植えて30年から50年でいいワインができてくるので、私の子ども世代にも続いていくような組織をしっかりつくっていきたいです」
そんな蓮見さんにとってワインづくりとは。「やっぱり畑からと思っています。いいワインはいいぶどうからできるので。ここは標高が高いので、果汁の酸味がしっかりして、ワインにしたときにキレがある。そんな地域の特性をあらわしたワインがつくりたいです。そして地元の人にも飲んでもらえるようなワインでありたいと思っています」
蓮見 よしあき
はすみ よしあき
1972年生まれ。海外生活と各国歴訪を経て、国内ワイナリーに就職。2005年東御市に移住、はすみふぁーむ設立。2010年ワイナリー設立。2008年から東御市議会議員も務める。