vol.39 ドメーヌ ナカジマ
中島 豊さん

急斜面の畑で低農薬栽培
野生酵母で醸した自然派ワイン

vol.39 ドメーヌ ナカジマ<br>中島 豊さん<br><br>急斜面の畑で低農薬栽培<br>野生酵母で醸した自然派ワイン

サンテミリオンのブドウ畑の丘に憧れて

降水量が少なく、日中の寒暖差が大きいためワイン用ブドウの栽培に適している東御市。2008年に全国に先駆けてワイン特区を取得。通常の免許取得に必要な醸造量の3分の1(2000ℓ)で免許が取得できるようになりました。(2015年、近隣8市町村 上田市、小諸市、千曲市、東御市、立科町、青木村、長和町、坂城町 による広域ワイン特区に認定された)

このワイン特区を利用し、2014年に東御市で4軒目に誕生したワイナリーが「ドメーヌナカジマ」です。

オーナーの中島 豊さんは、サラリーマン時代に趣味でル・コルドン・ブルーが主催する料理教室に通っていました。そこでつくった料理に合わせてワインを購入するうちに、ワインにも興味を持つようになっていったのだそう。ワインスクールにも通い、やがてワインエキスパートの資格を取得しました。
その頃、フランス ボルドー地方 サンテミリオンにあるブドウ畑の丘を訪れ「こんな気持ちのいいブドウ畑で一生を送れたら」と思ったことが、ワイナリーを目指すきかっけになりました。

2008年、東御市がワイン特区を取得すると、翌年に移住。青年就農給付金制度を4年間利用しながら、地元のワイナリーでブドウの栽培研修を受けると同時に、自ら地元の人に声をかけて畑を探し、2010年からワイン用ブドウの栽培をはじめました。
「自然派ワインが持つ、やさしい飲み口と複雑な味が好き」という中島さん、2010年は自分の大好きなワインをつくる醸造家、新井順子さんがオーナーを務めるフランスのドメーヌ・デ・ボワリュカ、2011年はドイツのベルンハルト・フーバー醸造所、2012年は栃木県のココファームと、主に野生酵母を使って醸造するワイナリーで、研修を受けました。
2013年に初収穫を迎え、ファンキーシャトー(青木村)に委託醸造してワインを造ります。

コツコツと着実に夢に向かって前進した中島さんは、その翌年に「ドメーヌ ナカジマ」を開設したのです。

ブドウが持つ、本来の力を信じて野性酵母で醸す

この日、ドメーヌナカジマの畑を訪れると、ちょうどメルローの収穫の真っ最中。横浜から収穫の手伝いに訪れていたワイン愛好家の方は、「中島さんのワインはとてもナチュラルでやさしい。身体に沁みわたるような感じですね。今、東京では自然派のワインが流行っています。僕はとくに自然派のワインがいいというわけではないけれど、自然派のワインが持つやさしい味が好き。中島さんもやさしくて良い人。お母さんもまた、いいんだよなー」と、ワインだけではなく人柄にも魅了された様子。

「母は、年を重ねて言いたい放題ですけどね」と楽しそうに笑いながらも、「でも、自然は厳しいですよ」と、中島さん。

ドメーヌナカジマの畑は、ワインのラベルにも描かれているように急斜面で、トラクターや乗用草刈り機が中へ入っていくことができず、ほとんどが手作業です。
また、強い粘土質で、肥料分が流れ、土はとても乾きやすく、渇水の危険があります。

それでもこの場所を選んだのは「与えられた環境でがんばる」という信念と、「ブドウは強い植物。さまざまなストレスに耐えて実をつけてこそおいしいワインになる」という、ブドウ本来の力を信じているからです。

そのため、必要最低限の農薬、必要最低限の草刈り、必要最低限の誘引や除葉と、全てが必要最低限で済むように事前準備を大切にしています。

たとえば、畑を借りた当初はいろいろな雑草が生えていたそうですが、「あまり丈が長くなると歩きにくいから」と、下から20cmくらいのところをビーバーで刈っていたら、それより背の高い草は淘汰され、歩きやすくなりました。すると風通しがよくなり、ブドウの木の病気予防に繋がりました。背の低い雑草も秋には枯れて肥料となるなど、一挙両得以上の結果を得たのです。

また、ブドウの粉砕はビニールの上から足踏みをしています。
お母様の体重が40kg、中島さんが60kg、弟さんが80kgという、20kg違いずつなので、状況によりあと少しだけ潰したいときはお母様が潰す、といった具合に調節がきいてちょうどいいのだそうです。

一房ずつ丁寧に収穫。 野性酵母はブドウの皮にもついている
手間をかけ、大切に育てられた木には健康的で美味しいブドウが実る

安全な畑は野鳥の雛のお墨付き

近所の農家が育てる巨峰で造ったスパークリングワイン「ペティアン・ナチュール・ロゼ」は、野鳥の雛と巨峰の両方をイメージした可愛らしい絵のラベル。中島さんのお姉さんが描いてくださったそうです。
「野性酵母で醸すので造るのは難しいけれど、ワイン自体は気軽に飲んでもらいたいのでこのようなラベルにしました」と中島さん。

この絵のモデルは、シュナン・ブランの枝の間に作られた鳥の巣から孵った野鳥の雛。
殺虫剤は使わず、枝に着いた虫は一匹ずつ手で取り除き、殺菌剤は石灰硫黄合剤と薄めのボルドー液のみ。野鳥がブドウ畑に巣をつくってしまうほど、環境にやさしい安全な畑であることを物語っています。

現在、自社畑は1.5haあり、成木になれば5000本のワインを造ることができるのだそう。「弟が移住して手伝ってくれるようになったので、もう一人分食べていけるだけの畑を増やさないと」と、少しだけ畑を増やす予定。

ワインの品質が一定になったら、会員を募り、自分たちの造ったワインを気に入ってくれる人たちに買ってもらい、生活するうえで必要な本数だけ造ることができれば良いと考えています。

「ほかとはちょっと違う、おいしくてやさしいワインを造りたいです」と語る中島さん
(取材・文/坂田雅美  写真/平松マキ)

中島 豊

なかじま ゆたか

1978年、東京都羽村市出身。2002年に理系大学を卒業後、システムエンジニアとしてサラリーマン生活を送る。2009年、東御市に移住。日本にとどまらず、フランスやドイツなど各地で醸造の研修を受け、2014年、ドメーヌ ナカジマを開設。栽培品種は、主力のカベルネ・フランに加え、メルロ、シュナン・ブラン、ソーヴィニオン・ブラン。

ドメーヌナカジマ

 

所在地 長野県東御市和4601-3
MAIL    info@d-nakajima.jp

取扱酒販店など:ブログ「ぶどう畑で逢いましょう」で紹介
時期によりメールにて直接購入も可能
併設の売店が土は日限定・11〜16時開店(要確認)

2016年03月30日掲載