vol.35 大池ワイン
藤沢 啓太さん、横町 崇さん
山形村産ワインを地域ブランドにして
村を元気にしたい
伯父の遺志を継ぎ、ヤマ・ソービニオンでワインづくり
山形村は、長野県中部の松本盆地に位置し、野菜や果物栽培が盛んな市町村を結ぶ「日本アルプスサラダ街道」が通る農業地帯です。標高約700m、日本ワインの先進地として知られる「桔梗ヶ原」から車で15分という好立地にあります。降水量が少なく、冷涼で昼夜の寒暖差が大きいのでワイン用ぶどうの栽培にも適しています。
平成26(2014)年に村がワイン特区を取得し、年間2000リットル(ボトルで約3000本)以上醸造すれば、ワイナリーを設立できることになりました。このワイン特区を利用して「大池(たいけ)ワイン」を設立したのが藤沢啓太さんです。
平成27年4月に開所した、新しいワイナリーですが、ぶどうの樹齢は15年。藤沢さんの伯父で今は亡き高山洸保(たかやま ひろやす)さんが宮田村から譲り受けたヤマ・ソービニオンを挿し木し、2.5アールにまで増やしたものです。
ヤマ・ソービニオンは、母系品種が日本の在来種であるヤマブドウ、父系品種がカベルネ・ソービニオンという交雑品種です。
色が濃厚で酸度が高く、渋みも強いといった特徴あるブドウ。冷涼な気候の山形村で栽培することで、さらにその特徴が際立つのだそう。
高山さんがワイン造りを夢見て、大切に栽培してきたぶどう畑。その後、藤沢さんが引き継ぐことになりますが、当初は、草刈り・剪定・誘引・芽かきなど山のような仕事量に驚き、安請け合いしたことをすぐに後悔したそうです。しかし、いざ、ぶどうが熟すと、このぶどうで造ったワインを飲んでみたくなってしまったという藤沢さん。そして「このぶどうでワインを造ることは自分の夢でもある」と、安曇野ワイナリーに頼み込み、委託醸造してもらったのがオリジナルワインのはじまりでした。
そのワインがとてもおいしかったので、代々酒屋を商い、酒販免許を持っていた藤沢さんは村の祭りなどに出品することにしました。すると、地元産ワインというめずらしさもあって、飛ぶように売れたのです。
自分のワイン造りのため、そして村の活性化のために
委託醸造でのワイン造りは6年続きました。仕入れ本数を2年目、3年目と少しずつ増やし、4年目は500本に増やしましたが全て完売。ちょうどその頃、友人から使われていない工場を安く貸してくれると申し入れがあったたため、これは天のおぼしめしと考え、自身でワイナリーを開設することを決意しました。
「ところが、いろいろ調べるとえらくハードルが高いことがわかってねぇ。自分がワインを造るのに小ロットでないと造れないから村にワイン特区を取得するよう村長に言ったんだよ。そしたら村長が、自分で書類を用意できるならやってもいいって言ってくれたもんでね」と、「自分がワインを造りたいから」と言ってのける藤沢さん。
とても豪快な方ですが、「ワイン特区」を取得することで、ワイン醸造施設が増えれば、村人の雇用創出や人口増加にもつながるかもしれないし、ぶどうのほかにも山形村特産のりんごをシードルにすれば新しい特産もできる。そうしてできたワインやシードルを村内や近郊の飲食店・宿泊施設などで販売し、地域のブランド商品として定着を図れば、村の活性化にもつながる。自分の夢とともに、村の将来も考えてのことでした。
広島からやってきた若き醸造家との出会い
特区の認可が降りると、ステンレスタンクの販売業者を介して、醸造家の横町崇さんと出会います。横町さんは新規開設のワイナリーやヴィンヤードの求めに応じて技術を全国に伝え歩いている醸造家。「ワイン造りは農業」という思いを胸に土づくりからぶどう栽培を管理し、最低限の農薬で品種の特性を生かすワイン造りを伝えるのみならず、ご自身も広島県三次市にてワイナリー開設を視野にいれ「ヴィノーブルヴィンヤード」を運営しています。
「山形村は、長芋の産地というだけあって、黒ボク土で水はけが良い。また、表土が厚く、目の細かい土なので、ワイン用ぶどうに適した土地だと思います」と、横町さん。
藤沢さんの求める「あまり酸っぱくない、飲みやすいワイン」をともに目指してヤマ・ソービニオンの赤ワインとロゼスパークリングワイン、山形村産の「つがる」や「ふじ」を使ったシードルを平成27(2015)年、初めて仕込みをしました。
初ヴィンテージのお目見えは同年の12月。
大池ワイナリーの挑戦が、ここからはじまります。
*大池ワインのワインは山形村のセブンイレブンにて購入できます。
〒390-1301 長野県東筑摩郡 山形村1721−1
電話:0263-98-3045
(取材・文・坂田 雅美 写真/阿部 宣彦)
藤沢 啓太
ふじさわ けいた
1963年、長野県東筑摩郡山形村生まれ 。松商学園高校卒業。会社勤務を経て、実家の「むかいや酒店」を継ぐ。その後、山形村初のコンビニエンスストアへ転向。また、亡き伯父の遺志を継ぎヤマ・ソービニオンの畑を管理する。50歳を過ぎた頃から「これからは自分の好きな仕事をしたい」と思うようになり、ワイナリーを開設。
横町 崇
よこまち たかし
1977年、広島県三次市生まれ 。東京農業大学 農学部醸造学科を卒業後、広島県の三次ワイナリーや山梨県の勝沼醸造株式会社に勤務し、栽培と醸造技術を学ぶ。
生まれ育った広島県三次市にて2020年頃のワイナリー開設を目指し、ぶどう畑「ヴィノーブルヴィンヤード」を運営。醸造の師匠と仰ぐ、増子敬公氏が営む「Cfa Backyard Winery」(栃木県)へ委託醸造し、ワイン造りを行っている。
また、ワイン用ぶどうの苗木を育てたり、全国の新設ワイナリーやヴィンヤードに出張して栽培、醸造指導を行っている。