vol.2 山辺ワイナリー
遠藤 雅之さん
ぶどう栽培の適地だからこそ
おいしいワインが醸される
「丁寧に」を心がける
少数精鋭のつくり手たち
山辺ワイナリーのある地は、美ヶ原高原に連なる三峯山を源流とする薄川によって形成された扇状地の上に位置します。「長野県ぶどう発祥の地」である山辺のぶどう栽培の歴史は長く、古くは江戸中期に甲州ぶどうが栽培されたことが記録に残ります。
「ワインづくりは、ぶどうづくり。畑に出ることで、ぶどうを通してワインを、またワインを通してぶどうを見ることができるようになってきました」。そう語るのは、醸造責任者を務める遠藤雅之さん。それまで醸造ひとすじ、栽培経験はありませんでした。
「まわりはぶどう栽培のプロばかりですから、教えてもらったり、意見をうかがったりしながら取り組んでいます」と遠藤さんが言うとおり、山辺ワイナリーはもともと地元農協であるJA松本ハイランドを事業主体として設立されたため、農協の指導員や周辺農家など、先達が伝授してくれるぶどうづくりのノウハウには事欠かないというわけです。
栽培と醸造に携わる職員はそれぞれ3人ずつ。決して多くはない人数ゆえ、遠藤さんを含めた醸造担当者もぶどうの手入れをし、また出荷最盛期には栽培担当者がビン詰め作業に加わることも。
「技術的にはまだまだですが、とにかく丁寧に作業することを心がけています」と遠藤さん。例えば剪定した切り口ひとつひとつにきちんと薬を塗布すること、赤ワインの醸造過程で梗を1本でも多く取り除くこと。ぶどうづくり、ワインづくりは、気の遠くなるような作業の積み重ねです。「つくっている我々が納得のいくまでやらなければ、いいワインにはならないと思います」
白に続いて赤も
高い評価を受けた山辺ワイン
その成果が実って、国産ワインコンクール2012では「ナイヤガラ甘口2011」が部門最高賞を、「シャルドネ シュール・リー2011」が銀賞を受賞。また、長野県原産地呼称管理委員会による審査会では「メルロ畑の番人2010」が審査員奨励賞を受賞しました。
「『メルロ畑の番人』は、ぶどうを手にしたときに、これはいけるという予感があったので、別のロットで仕込みました。これまで赤ワインはあまり注目されてこなかったので、今回の受賞は非常に勇気づけられました。何よりも生産者の方が喜んでくれましたね」
ぶどう栽培に合った土地だからこそ、良いぶどうが収穫でき、おいしいワインができる。「この地にワイナリーがあることは必然だ」と遠藤さんは語ります。「ワイナリーとしての歴史は浅く発展途上ですが、山辺はぶどう栽培の歴史が長いので、ワイン用としても潜在的な力があると思うんです」。だからこそ山辺で広く栽培されているナイアガラでの受賞は、喜びもひとしおだったとか。
「ぶどう栽培の適地として、この環境を認めてもらえたような気がしてうれしかったです。会社でもらったというより、この地域でもらった賞だなと感じます」
目指すは「山辺」という土地の
個性があらわれたワイン
遠藤さんにとってのワインづくりの魅力は「創造すること」。ぶどうやワインなど形あるものをつくると同時に、ワインによって生まれる楽しい時間をつくること。「ワインを飲む人々の楽しい時間の傍らに、自分たちのワインがある情景を想像しながら仕事ができることに喜びを感じています」
そもそも大学生の頃に友人たちとお酒を飲む楽しさを知ったのが、遠藤さんがワインづくりを志すきっかけでした。「ワインを飲む人たちにも、楽しんで飲んでほしい。だからこそ、つくっている私たちも楽しく栽培、醸造を行うように心がけています」
その言葉通り、2011年に入社した醸造担当者のひとり、北沢美佳さんは、「毎日がとても楽しい。巡り合わせ良く山辺ワイナリーに入社することができて本当に幸せ」と笑います。
遠藤さんが、これからつくってみたいのは「山辺という土地の個性があらわれ、かつ飲みあきないワイン」だといいます。
「テロワールは当然大事ですが、それをつくりだすのは人間です。どんなにいい環境でも、人間がいなければぶどうはできませんし、ワインもできません。だから先人たちの努力や人々の営みに敬意を払いつつ、自分もぶどうづくり、ワインづくりに携わっていきたいです」。静かに語る口調が熱を帯びます。
「そのうえで山辺のスタイルを確立し、幅広いぶどう品種でワインをつくっても、どれを飲んでも『あ、山辺のワインだ』とわかってもらえるようなワインをつくりたい。そうなって初めてこの地でワインをつくる意義がまっとうできるのだと思います」
遠藤 雅之
えんどう まさし
1975(昭和50)年生まれ、新潟県出身。信州大学農学部卒。2002(平成14)年の山辺ワイナリー設立時よりワイン醸造に携わる。