vol.22 キタムラヴィンヤード
北村 智洋さん

新規就農でワインづくりの夢を形に

vol.22 キタムラヴィンヤード<br>北村 智洋さん<br><br>新規就農でワインづくりの夢を形に<br>

坂城町のワイン特区で
ぶどう生産の担い手となる

生食用ぶどうの栽培が盛んに行われている坂城町。降水量が少ない、昼夜の寒暖差が大きい、砂利質の土壌など、ワイン用ぶどうの栽培適地としても注目を浴びています。坂城町は2013年11月末に「ワイン特区」として国に認定され、小規模のワイナリーが開業しやすくなりました。

ワインなど果実酒の製造免許は、年間6000リットル以上醸造することが取得の条件ですが、特区では2000リットル以上に条件が緩和されるため、ワイナリー開業の初期投資を抑えることができます。県内で先行してワイン特区となった東御市や上高井郡高山村ではワイナリー開業が相次ぎました。

現在、坂城町でワイン用ぶどうを生産しているのは、前回ご紹介した上ノ原果樹園の成澤直さんと、キタムラヴィンヤードの北村智洋さん。北村さんは坂城町ワイナリー形成事業の試験ほ場(約55アール)を託されてもいます。もとは40アールでしたが、隣接する雑木林を北村さんらが開墾して15アール広げました。そのガッツには頭が下がります。

坂城町の試験ほ場では、第1ほ場にリースリングなど白ワイン系、第2ほ場にメルローなど赤ワイン系を栽培
標高450メートルほどの高台にある55アールの試験ほ場を北村さんらが管理している

「農業をやりたい」、30歳目前に決断

農家の後継者であれば話は別ですが、土地もノウハウもない新規就農はどれほどハードルが高いでしょうか。北村さんは非農家出身です。

「当初から農業をやりたいと思っていました。しかし資金も何もなしに始めるわけにはいかず、まずシステムエンジニアになりました。東京でなくて長野で就職したのがよかったですね。長野で働くならこの自然のなかで農業をしたいという思いが強くなり、30歳を目前に一生の仕事として農業を選びました」

長野市で業務用ハーブを生産する企業に転職。2年間、西洋ハーブの栽培に携わったのち、2012年に坂城町に移住して、独自にハーブとぶどうの生産をスタート。さらに町の試験ほ場を任されたことで、個人では難しいワイン用ぶどうの試験栽培も可能になりました。

2カ所の試験ほ場には、白系としてリースリング、ソーヴィニヨン・ブラン、シルヴァーナ(ドイツ系品種)、シャルドネ、ピノ・ブラン、赤系としてカベルネ・ソーヴィニヨンとメルローを栽培しています。

「リースリングを栽培するには坂城町は標高が少し低いものの、長野県内ではまだ栽培に成功しているとはいえないので、ぜひ、本格的にやってみたいです」

遊休農地などを借り受けるなどして、さらにぶどう畑を広げていきたいと意気込んでいます。

長野県新規就農里親制度を使い、上ノ原果樹園の成澤直さんのもとで、2年間栽培を学んだ。一期生として長野県ワイン生産アカデミーを受講

「坂城町にワイナリーをつくろう」
3人の男たちが挑む

「ハーブは生産サイクルが忙しいですが、ぶどうは1年間じっくりと育てていけます。加工して6次産業化することで、そのワインを生産した年はどんな年だったかと語ることもできます。ストーリーを語ることができるのは楽しいですね」

ぶどうづくりに手応えを感じている北村さんは、昨年、結婚したばかり。奥様は調理師免許を持つ素敵な女性です。二人は家族経営協定を結び、キタムラヴィンヤードの共同経営者として歩み始めました。

上ノ原果樹園の成澤直さんとは、協力し合い、ぶどうの生産技術を学び合う仲。また、シニアソムリエの成澤篤人さんとは、彼が経営するレストランにハーブを納品するうちに培われてきた信頼感があります。この30代後半、3人の男性の共通の夢は「坂城町にワイナリーを作ろう」。

役者は揃った。ワイン特区という舞台もできた。ここから案外早い展開となりそうな気配がしてきます。

「坂城町にワイナリーを作ろう」と意気込む3人。左から、シニアソムリエの成澤篤人さん、北村さん、上ノ原果樹園の成澤直さん
(取材・文/平尾朋子  写真/阿部宣彦)

北村 智洋

きたむら ともひろ

1976年、長野市出身。「将来は農業をやりたい」という思いが強く、システムエンジニアを経て、ハーブ栽培の企業で施設栽培に携わる。2012年に坂城町に移住して、ハーブとブドウの栽培をスタート。「さかきワイナリー形成事業」の試験ほ場の担い手としても活躍中。

キタムラヴィンヤード

所在地 ヴィンヤードのみ、ワイナリーはありません
TEL   個人宅のため記載は控えます
URL   キタムラヴィンヤード

2014年08月14日掲載