vol.20 北澤ぶどう園
北澤 文康さん
自らのぶどうで醸す
「千曲ワイン」を目指して
生食用ぶどう栽培で培った技術を生かす
「ここにワイナリーをつくりたいと思っているんです」。北澤文康さんが立つのは「田毎の月」で有名な姨捨のほど近く、長野自動車道とJR篠ノ井線を背に、眼下に千曲川の流れを見晴るかすところ。かつてはりんご畑でしたが、急傾斜地ということもあって長らく放置されていました。
北澤さんの祖父は、界隈で巨峰栽培をはじめた先駆けのひとり。そして先代は、ぶどう栽培の達人と知られた北澤昭男さんです。その腕を頼って果樹試験場の職員が教えを請いに来たほど。vol.19でご紹介した渡辺菊さんの師でもありました。
2013年に父親が急逝し、北澤さんは思いがけぬ早さでぶどう園の3代目となりましたが、就農してからはすでに10年目。今では母親と若きスタッフである丸山さんとともに、研修生も受け入れながらぶどう園を切り盛りしています。
先達の声を聞き、ワイナリー設立へ夢ふくらませ
栽培するのはナガノパープルやシャインマスカットなど生食用が主ですが、4年前から試験的にワイン専用品種の栽培もはじめています。シャルドネ、メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨンなど全20種ほどが生食用の畑の隅に1本ずつ、一文字仕立てで植えられています。
「一番知りたいのは、熟期と木の性質ですね。生食用と熟期がかぶらないように。それから新梢を誘引するときに欠けやすいのは、棚より垣根でやった方がいいかなとか、そういうことを見ています」
実は就農した頃からすでにワイナリー設立への思いはあったという北澤さん。ワイン専用品種の試験栽培をはじめる頃には、さらに具体的に夢がふくらみました。
「千曲川ワインバレーという動きのなかで、『はすみふぁーむ』の蓮見さんや『リュードヴァン』の小山さんとお会いする機会があって、いろいろと参考になるお話が聞けました。自分でもできるかな、やってみたいと思うようになりました」
満を持してワイン専用品種の本格栽培を開始
2014年は長野県主催のワイン生産アカデミーを受講し、さらなる刺激を受けました。そして畑にはすでにシラーと、ゲヴュルツトラミネールを植えたといいます。
「お年寄りの畑で、やり手のいなかったところを引き受けたんですが、そういう畑があちこちにあるんですね。それとは別にまとまって借りられるところがあれば、垣根を張っていきたいと思っています」
2015年には、北澤さん自身が一番好きなマルベックを植える予定。マルベックはボルドーワインの補助的品種ですが、栽培量はかの地でもごくわずか。近年ではアルゼンチンのワインを代表する品種として知られます。「せっかくなら誰もつくっていないような品種から入ってみようと」
これまで蓄積してきたぶどうづくりのノウハウをもとに、北澤さんはワイン専用品種の栽培を今後も着実に広げていく予定。順調にいけば、2〜3年後には初収穫を迎えます。その胸にはワインづくり、そしてワイナリー設立への思いが熱く宿っています。
(取材・文/塚田結子 写真/平松マキ)
北澤 文康
きたざわ のりやす
1979(昭和54)年、千曲市生まれ。25歳で家業のぶどう園に入り、2013年より園主となる。趣味の域を超えたマラソンランナーでもある。