Vol.91 Veraison note
中川裕次さん、櫻山記子さん
黒ぶどうの適地・東山地区で
ナチュラルワインを醸す
赤ワイン用ぶどうの栽培適地
東山地区にできたワイナリー
本連載Vol.61でご紹介したVERAISON NOTE(ヴェレゾンノート)の中川裕次さんと櫻山記子さんが、念願のワイナリーを完成させました。
場所は上田市塩田平の東山地区。地名を富士山(ふじやま)といい、雨乞いの山として信仰される富士嶽山(ふじたけやま)に由来します(古来、雨不足に悩まされてきたこの地について、前回の記事に書きましたので、ぜひご一読ください)。
東山地区といえば、標高550mの南向きの傾斜地に一面のぶどう畑が広がる農業振興地域です。農地転用に手間がかかったものの、無事に許可を経て、2023(令和5)年秋、ワイナリーが竣工しました。
中川さんは東京から移住して、2015(平成27)年から東山地区でぶどう栽培をはじめました。2016年に千曲川ワインアカデミーの2期生としてワインづくりを学び、スタッフとして働いていた櫻山さんと意気投合。その後、ふたりそろってマザーバインズ長野醸造所(高山村)で3年間、ともに学びながら醸造経験を積みます。
いわゆるクラシカルな造りをきっちり経験し、2020(令和2)年からはテールドシエル(小諸市)とツイヂラボ(東御市)へ委託醸造し、念願のナチュラルワインを仕込んできました。
2022年、アトリエ・デュ・ヴァン(東御市)の飯島明さんの好意により、はじめて自分たちの手で仕込んだペティアン「ピンク・レディ・フラッシュ」は好評で、手応えを感じたといいます。
自分たちの手で仕込む
ナチュラルワイン
2023(令和5)年、完成したワイナリーで満を持してふたりがつくるのは、自然酵母で醸すナチュラルワインです。テールドシエルの醸造責任者を務める桒原一斗さんには特に影響を受け、その造り方を理想とし、ワイナリー設立にあたっては大いに参考にしたといいます。
除梗破砕機は導入せず、手作業で果梗を取り除き、圧搾は垂直式のプレス機に脚をはかせて高い位置で行い、ポンプを使わず自重(じじゅう)でタンクに流れ込むようにしました。
1年目の造りを終えての感想をたずねると「力仕事ですね。ワイナリーは工場で、畑仕事とは全然ちがう。すべて緊張してやっています」と中川さん。そして「ぶどうが大事だということが、醸造をやって改めてわかりました」と言います。
櫻山さんも「私たちは醸造テクニックがあるわけではないので、ぶどうの味がそのまま出る。だからぶどうが良くないとダメだなあと実感しました。栽培への反省点がいっぱいです」と口をそろえます。
これまでも除草剤や殺虫剤、化学農薬や化学肥料を使わず、虫害や獣害とも戦いながら、有機栽培でぶどうを育ててきたふたりですが、「もっと畑を回らないとだめだ」と思うようになったといいます。
「ぶどうは人の足音で育つと言う。つまりぶどうを常によく見るということ。そうでなければ、いいぶどうは育たないんです」。理想のワインに近づけるために、新たなスタッフを迎え入れようと計画中です。
ふたりが理想とする、日本ならではのエレガントで長熟タイプの赤ワインをつくるため、畑仕事も力仕事も、共通の趣味である音楽をかけながら、じっくり取り組んでいくのでしょう。
中川 裕次さん 櫻山 記子さん
なかがわ ゆうじさん さくらやま のりこさん
中川さんは2014(平成26)年に東京から上田市へ移住し、塩田平の東山地区にカベルネ・ソーヴィニヨンとネッビオーロを植えた。2023(令和5)年、東山の畑の一角にワイナリーを設立。有機栽培のぶどうでナチュラルワインを醸す。