vol.34 角田酒店
角田 正雄さん
150坪のぶどう畑から生まれる
「蔵の町ワイン」
酒店店主が大事に育てたぶどうを
ナイトハーヴェストで
大正から昭和初期に生糸で栄えた須坂。今も蔵の立ち並ぶ町並が風情を醸し出します。
近年、須坂・高山村周辺はワインぶどう栽培の適地として注目され、なかでも楠ワイナリーが人気上昇中です。
その須坂で、100年以上続く角田酒店の店主・角田正雄さんがワインぶどうを栽培し、地域を盛り上げようという思いを込めて「信州須坂 蔵の町ワイン」として販売しています。
角田酒店の八木沢ファームは、住宅地の中にある約150坪のとても小さなヴィンヤード。
「園芸試験場にりんご畑として貸してあった土地ですが、まわりに家が建て込んできて、機械で消毒するわけにもいかなくなり、返されました。わが家の家庭菜園にしていたら、サンクゼールさんからぶどう栽培の適地だからやってみないかと誘われてね」
角田さんが、メルローの苗木150本、シャルドネの苗木50本を植えたのが2006年。
農業経験は家庭菜園だけでしたが、ぶどうの木1本ごとの生育状況をノートに書きとめ、試行錯誤を繰り返しながら、自分ひとりで、まさに手塩にかけて栽培してきました。
2008年には、サンクゼールに委託醸造して「蔵の町ワイン・メルロー」を初リリース。
木がまだ若く、初めてにしてはワインの味がよく出ていることに気をよくして、2012年からはナイトハーヴェストを取り入れました。
同じぶどうでも、夜間は糖度が高くなる傾向があり、フルーティで香り豊かな果実が収穫できるのです。
深夜1時半ごろから早朝にかけて、頭にカンテラをつけて作業を行います。
日中は酒店の仕事があり、いつ眠っているのかと不思議がられますが、味の違いを知ってしまえば苦労も吹き飛ぶのだとか。
「特に2012年は天候に恵まれて、いいぶどうができました。ワインに詳しい俳優の辰巳拓郎さんが『凝縮された果実味がある』と評価してくださったのは、うれしかったな」
ぶどうを育てて9年
「いい味が出てきました」
日本の景気が右肩上がりの時代、角田さんは持ち前の企画力で酒の売上を伸ばしてきました。
昭和54(1979)年から8年連続で、サントリーオールドの大量陳列コンクールでは最優秀賞を獲得しています。
しかし、ディスカウント店やコンビニに押されるようになり、売り上げは次第に減少。
須坂の中心市街地も、シャッターを閉めたままの商店が目につくようになってきます。
何とか地元を盛り上げたいという気持ちも、角田さんの背中を押しました。
以前からワインや日本酒のオリジナルラベルを作り、ラベルだけでなく中身もオリジナルにと考えていたところに、ぶどう栽培の話が持ち上がります。
絵筆をとって40年になる油絵は、大作が笠鉾会館に飾られているほどの腕前。
版画や書、デザインも手掛けており、ワインのラベルは版画も文字も自らの手で描いたものです。
「ぶどうを育てて9年。若木のころより味が増していいワインができるようになってきました」という角田さん。
できるだけ有機農法を心掛け、肥料は高山村の前田牧場から堆肥を運んでいます。
今も未明の3時から農作業を始めることもあり「1日が30時間欲しい」ほどの忙しさですが、「ワインづくりは、男のロマン」と手を抜かずにぶどう畑に出ています。
古稀を迎え、ようやく奥様が手伝ってくれるようになったと、はにかんでいます。
(取材・文/平尾朋子 写真/平松マキ)
角田 正雄
つのだ まさお
1945年、須坂市出身。明治40年代後半に創業した角田酒店の3代目。父が病気がちであったため、夜学に通いながら店を手伝い、父が亡くなり21歳で店を継承する。所有する土地に2006年からメルローやシャルドネを栽培し、サンクゼールに委託醸造。「蔵の町ワイン」は町おこしの願いを込め、須坂でしか買えないワインとして販売中。店舗に郷土の作家を紹介する「アートの窓」を設置している。
有限会社 角田酒店
ゆうげんがいしゃつのださけてん
所在地 須坂市春木町506-3(酒販店として営業)
TEL 026-245-0015