vol.27 佐藤農園
佐藤 明夫さん

高山村ならではの
ピノ・ノワールを成功させたい

vol.27 佐藤農園<br>佐藤 明夫さん<br><br>高山村ならではの<br>ピノ・ノワールを成功させたい

「北信シャルドネ」「長野シャルドネ」を育て
さらに新天地を拓く

実力派の若手栽培家として期待される佐藤明夫さん。長年、シャトー・メルシャンの契約農家として、数々の受賞歴を重ねる「北信シャルドネ」や「長野シャルドネ」にぶどうを提供しています。また、シャルドネとともにピノ・ノワールで「キュヴェ・アキオ」と佐藤さんの名が冠されているワインが醸造されており、その力量がうかがえます。

シャトー・メルシャン「長野シャルドネ2013 キュベ・アキオ」

ワイン用ぶどうのつくり手は、新規就農者や生食用ぶどう栽培からの参入者が多いなか、佐藤さんはワイン用ぶどうを栽培する農家に生まれました。「もの心ついたときからワイン用ぶどう栽培に携わるのは自然な流れ」であり、41歳にしてすでに栽培歴23年。

2006年に佐藤農園として独立するときに、ほ場3.5ヘクタールを継承し、さらに遊休農地3ヘクタールを開墾しました。白はシャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、赤はカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、タナ、ピノ・ノワールを栽培しています。

今、最も力を入れるのは、福井原という地区のほ場です。

「標高830メートル、しかも北斜面。これからは地球温暖化に向けて、こうした場所がワイン用ぶどうの適地として伸びるのではないでしょうか」と佐藤さんは目を輝かせます。

2012年、福井原に植えたのはピノ・ノワール6000本。日本の食事に合わせやすい赤系品種とされ、この地の気候や土壌に合うとにらんでいます。まずは自根苗で育て、様子を見ながら接ぎ木苗に更新していくつもりです。

すでにピノ・ノワールで一定の成果を上げる佐藤さんが見出した福井原という新天地。7月末の取材時、同じ高山村でも、シャルドネのほ場のある標高450メートルの日滝原付近は真夏の酷暑でしたが、車でわずか7分ほどの福井原のあたりはかなり涼しくさわやかでした。

標高830メートルの気候を活かして
生ハムづくり

冷涼な気候を利用するべく、福井原のほ場の一角に建てたのが、生ハム工房豚家「TONYA」。2013年12月にスタートし、試作の予約販売時から人気が高く、来年出荷予定分もすでに東京のイタリア料理店などからの予約でいっぱいです。

そもそも生ハムづくりは「自分が食べたかったから」始めたもの。8年ほど前、ワインのつまみとしてスペイン産生ハム「ハモンセラーノ」のうまさにひかれ、最初はスーパーでブロック肉を求めてつくってみました。

本格的にやりたくなって、秋田県内の生ハム工房へ通って製造法を学び、日滝原の農園の一角で試作を繰り返してきました。現在のように枝肉を仕込むようになったのは5年前。農閑期の冬に、肉と塩だけで集中的に仕込み、1年を掛けて乳酸菌やカビによる熟成を待ちます。

生ハム工房の天井に吊るされ、発酵熟成を待つ生ハムの枝肉

それまでの経験でわかったことは、上質な生ハムをつくるには、夏も30℃を越えない気温と年間を通して適度な湿気が必要なことでした。日滝原では夏場35℃になることもあります。そこで標高が高く、冷涼な福井原に生ハム工房を建てました。現在の仕込みは70本。工房ではスペース的に300本までは仕込むことができ、来年の仕込みは150本を目指します。

「みなさんに注目され、高山村の特産品にと期待の大きさにびっくりするほど。今では自分は『ハムの人』で通っています」と佐藤さんは笑います。

生ハム・ワイン・温泉のコラボで
地域を元気にしよう

「ぶどうをつくりたいと言ってくる人には、最初に『やめときなさい』と言うんです。それでもという人でなければ受け入れません。それなりの覚悟がないとできませんから」

そう言いながらも、佐藤さんは今までに4人の研修生を受け入れて指導しています。その甲斐あって、うち2人はすでに新規就農を果たしました。

ワイナリーありきという人には「まずはぶどうづくりをみっちりやってから」と釘を刺します。いいワインはいいぶどうからであり、長年の経験からぶどう栽培の難しさが身に沁みてわかっているからです。

三女の父でもある佐藤さん。「子どもが育っていくうえで、川や畑で遊ぶなど自然の中での経験は宝。ワイン用ぶどうを育てるのにも自然への感性は大切ですね」

自身は「10年後くらいに小さなガレージワイナリーをつくりたい。栽培から醸造まで一貫したドメーヌを目指します」

小規模な経営であっても、ぶどう栽培、ワイナリー、生ハム製造販売の3つをやっていくことで、身の丈にあった利益を安定的に確保していくことができると考えています。

「高山村周辺は魅力的な場所です。標高差があるから、ワイン用ぶどうもいろいろな種類がつくれるし、いずれ5つくらいはワイナリーが欲しいですね。山田温泉、七味温泉など温泉が楽しめて、山田牧場がある。うまくコラボして観光資源にしたいところですが、つくり手も自分たちが動かないと。誰かがやってくれるのを待っていてはできません」

佐藤さんは今後、生ハム・ワイン・温泉のコラボレーションで、地域の魅力をアピールしていこうと考えています。

明夫さんの生ハム工房は畑の一角に建つ
地元ワインと地元生ハムのマリアージュが楽しみ
(取材・文/平尾朋子  写真/平松マキ)

佐藤 明夫

さとう あきお

1973年、中野市出身。ワイン用ぶどう栽培の農家に生まれ育ち、2006年に独立。継承したほ場3.5ヘクタールに加え、遊休農地3ヘクタールを開墾。ぶどうを提供したワインは国内外のワインコンクールで受賞歴多数。シャトー・メルシャンでは、シャルドネとピノ・ノワールに自身の名を冠したワインがある。準備期間を経て、2012年12月に生ハム工房豚家「TONYA」をスタートさせ、ワインと生ハムの相乗効果で地域の魅力づくりをねらう。

佐藤農園・生ハム工房 豚家「TONYA」

トンヤ

所在地 長野県上高井郡高山村牧上福井2502-7(ワイナリーはありません)
MAIL  noen-310@axel.ocn.ne.jp

2014年10月15日掲載