米国コーネル大学のアクリ教授、NAGANO WINEを視察して高く評価
ニューヨーク州のワイン産地化の軌跡、そして信州ワインバレー構想に共感
米国ではカリフォルニアワインが知られていますが、実はハワイやアラスカを含め50州すべてでワインが生産されています。なかでもニューヨーク州は現在、500ものワイナリーがあり、ニューヨークワインというブランドを形成しています。
かつて同州の農地は放棄され荒れていた時代があり、ワイナリーも1954年には4社しかありませんでした。
アメリカ系品種のブドウが主流だったのが、ヨーロッパ系品種のブドウ栽培が始まり、1974年にスロベニアのリュブリアナ国際ワインコンクールで優秀な成績を収めたことからブレイク。
さらに1976年のファーム・ワイナリー法施行により、小規模なブドウ生産者でもワインの製造・販売ができることになり、ワイナリーの数が飛躍的に増加しました。
現在では酪農に次いでワインブドウが農業生産の第2位になっており、景観としても荒廃地がブドウ畑に変わり、美しい田園風景となりました。
ニューヨークという大都市を控え、ワインツーリズムなど観光客も多数訪れています。
こうした成功は多くの生産者や醸造家の努力の賜物ですが、それを支えてきたのが、同州北部にあるコーネル大学であり、アクリ教授もその一員として、ワインの香りの研究を続けてきました。
同大学はブドウ栽培とワイン醸造学に力を入れ、ワインの品質向上に貢献するとともに、卒業生の6割が関連分野に就職して、有用な人材の供給元ともなっています。
アクリ教授によれば、現在、コーネル大学ではワインの解析研究を無料で行うなど、家族経営が多い中小規模のワイナリーの支援を積極的に行っているそうです。
アクリ教授は、千曲川ワインバレーではヴィラデスト、小布施ワイナリー、サンクゼール、桔梗ヶ原ワインバレーでは塩尻志学館高校、井筒ワイン、五一ワイン 林農園、アルプスワインを視察しました。
視察には、新品種産業化研究会から松尾雅彦さん(「日本で最も美しい村」連合副会長、スマート・テロワール協会会長、カルビー株式会社元社長)、松延洋平さん(コーネル大学終身評議員、首都大学東京大学院客員教授)が同行しています。
アクリ教授はニューヨーク州での経験から、地域のワイン振興には行政の支援が不可欠と考え、阿部守一知事と県北信合同庁舎(中野市)で懇談しました。
阿部知事が「地域産業振興のひとつの核として、信州ワインバレー構想を位置づけ、生産・販売・消費拡大に一貫して取り組んでいる」として、信州ワインバレー構想の概要を説明。
アクリ教授は、「継続していけば成功は間違いない」としたうえで、「生産者は競争ではなく、一緒になって成長していくことが大切。ニューヨークワインでは、最初の段階からワインの生産者に集まってもらって話し合う機会を作ってきた。
現在も年に一度は会合を開いている」と示唆しました。また、県独自の原産地呼称認証制度について、品質を担保するものとして素晴らしい試みと評価しています。
アクリ教授がニューヨークワインはほとんどがニューヨーク州内で消費されていると述べたのを受け、松尾雅彦さんは、「長野県のワインが売れているのは、首都圏であって、地元長野県ではない。長野でワインのある食文化を根付かせて、地元のワイン消費を拡大することが課題。洋食の楽しさ、ワインのあるライフスタイルを地元の方々が学ぶことを進めていけばどうか」と述べました。
ワイン醸造家たちとの意見交換会、「日本食にあうワイン」に商機あり
視察2日目には、桔梗ヶ原ワインバレーから井筒ワインの塚原嘉章社長、アルプスワインの矢ヶ崎弘道常務、信濃ワインの塩原悟文社長、五一ワインの林修一副社長、行政からは塩尻市地域ブランド担当の赤羽誠治部長が参加して、昼食懇談会を行いました。
アクリ教授は「米国では日本食ブームが続いており、若い人なら月に1~2回は日本食レストランに行く。そこに日本産ワインを置いたらどうか」。現在、寿司バーなどでは日本酒より日本の大手メーカーのビールがよく飲まれており、日本産ワインがあれば大きな強みになると言います。米国でも「日本食にあうワイン」が求められているということです。
ワインは単一か複数品種のブレンドが良いかという質問には、「ボルドーでも単一品種はメルローのみ。単一品種にはわかりやすさ、訴求力がある。しかしカベルネ・フランとカベルネ・ソーヴィニヨンのように補完しあう関係もあり、ブレンドすることでいいワインをつくりだすことができる。その場合は、その土地で育ったものだけを使うことが大切」
生食用ブドウからワイン専用品種への転換については、「ニューヨークワインでも転換するかどうか葛藤する時期があった。冬の寒さが課題だったが、地球温暖化により欧州系のワイン専用品種への転換が進んだ」
桔梗ヶ原ワインバレー側からは「コンコードなど生食用ブドウ品種を原料とする甘いワインが好まれなくなくなり、大手ワインメーカーがコンコードを買わなくなったために、困った農家が主にメルローに切り替え、塩尻は昭和50年ごろに一気にワイン専用品種への転換が進み、塩尻は一気にワイン産地になった。しかし最近では生食用に比べ収益の少ないワイン専用品種を農家が作らなくなり、やむなく、自社畑をふやしている」という塩尻の事情も披露されました。
アクリ教授一行は、長野県に続けて山梨県のワイン産地を視察し、東京・霞が関で「信州と甲州をめぐって」と題した講演会を新品種産業化研究会主催で行いました。
ここでは、コーネル大学のエクステンション(普及・公開講座)とワークショップ活動が、中小ワイナリーの開業と継続、ワインの品質向上を支えたことが報告されました。ニュースレターでの情報公開も大切で、インターネットを使わない農家のために紙ベースで送付していることを明かしました。
長野県のワイン生産については「すでに必要な才能が揃っている。伝統的な品種や栽培法にとらわれない、クリエイティブで知識豊かな専門家がいる」と称賛しています。