Vol.9 ワイン造りにとっての土壌
ブドウにとって快適な土壌をつくる
今回のおひとり目の講師は、なんと北海道から。農地や水など豊かな地域資源を保全し、安全・安心な農畜産物生産の安定的な生産、さらには生産性の向上に取り組んでいる、株式会社ズコーシャの丹羽勝久さんに「日本の土壌とワイン造り」の講義をしていただきました。
火山大国、日本の多くの土壌は黒ボク土と言われています。黒ボク土とは、火山灰が積層したところに茂った植物が枯れ、時間をかけて土となった土壌で、アルカンヴィーニュのある東御市周辺もこの土壌がほとんど。しかし世界的にみると、そのような土壌は1%未満なのだそうです。
肥沃なので果樹栽培には適しているといわれていますが、痩せた土地が良いとされるワイン用ブドウにとっては、根が深くまで伸びないなどの問題もでてきます。
また、リン酸が多く含まれるので、窒素やカリウムなど、他の要素とのバランスを考えた施肥が必要となります。
加えて、ブドウはマグネシウム欠乏(苦土欠)とホウ素欠乏が起こりやすいので、pHなどを図りながら施肥をおこない、ブドウにとって快適な土壌をつくっていくことが大切なのだそうです。
座学のあとは実際に畑に出て、1mほど穴を掘った場所の断面の硬さを測ったり、薬剤を使ってどんな土かを探ったりと、土壌調査をおこないました。
ワインと地質のかかわり
次の講義は、岐阜・高山より有限会社坂本酒店の坂本雄一さんにお越しいただき、「ワインと地質学」についてうかがいました。
海洋地質学・理学修士で『テロワール』(JAMES.E.WILSON著)の監訳者でもある坂本さんは、ワインを地質学という側面から研究されている方です。世界のワイン産地を歩き回り、地質を研究している方なので、実際にその畑で取ってきた石や土、立体地図など非常に興味深いものを見せてくださいました。
「このワインはこの土壌・地質だから、○○」という話をよく耳にしますが、実際は、地質がワインの味わいに与える影響を、科学的に実証されるまでにはいたっていません。
でも、たとえばイタリア・ヴェネト州に「ソアヴェ・クラシコ」という白ワインがあります。 ここは同じ産地でも2つの地質があります。 ひとつは玄武岩質、もうひとつが石灰岩質です。 前者の地質では濃厚な色調で熟した果実味のあるワインに、 後者は淡いイエローで柑橘を思わせる軽やかでフルーティーな白ワインになるそうです。
造り手のなかにも、日本全国の地質を調べて「ミネラル分が豊富な土地」ということで、長野県に決めたという方がいます。 確かにその方のワインは、〝塩っぽい〟感じがするんですよ。
地質は何千、何万年とかかって形成されてきたもので、ブドウはいろんな地層に根を伸ばします。 何千、何万年も前の地層から有機物を吸い上げ、養分を実に送り、味わいになると考えるのはロマンがありますよね!
ちなみに地質は年代順に古い方から始生代→原生代→古生代→中生代→新生代と区分されるそうですが、長野県でいうと、東北信は新生代の「第三紀層」「第四紀層」のころのもので火山噴出物によるものが多いそう。
中信は「古生代」「中生代」のころのもので堆積岩が多いそう。
南信は花崗岩の一種「深成岩類」が多いとのこと。
土地の持つ可能性を信じて
土壌や地層だけではなく、日照量や降雨量などもブドウの生育にとって大きく変わってきます。 そういうことを総じてテロワールと呼びます。
一方で、知り合いの造り手さんに薦められて読んだ本のなかに、ロジェ・ディオン著『ワインと風土-歴史的地理的考察』という本があるのですが、この著者は、次のように述べています。
葡萄栽培は、なによりも自然条件に左右されるものではあるが、自然の好条件だけが銘醸地の葡萄畑を造ったものではない。それは、幾世代にもわたる畑への「人間の営為」が積み重ねられた結果である。
つまり自然条件だけが銘酒を産み出す物ではないということ。 自分の畑は必ずしも良い条件ではないかもしれませんが、土地の可能性を信じ、良い畑になるよう努めていきたいです。
著者
成澤篤人
シニアソムリエ
1976年長野県坂城町出身。イタリアンレストラン「オステリア・ガット」ほか長野市内で3店舗を経営。NAGANO WINEを普及するための団体「NAGANO WINE応援団運営委員会」代表。故郷・坂城町にワイナリーをつくるため、2015年春からアルカンヴィーニュ内に設置された日本初の民間ワインアカデミー「千曲川ワインアカデミー」で第1期生として学びます。
日本ワイン農業研究所
アルカンヴィーニュ (ARC-EN-VIGNE)
「ARC」は「アーチ(弧)」を意味し、人と人をワインで繋ぐという寓意を込めています。フランス語で虹のことを「アルカンシエルARC-EN-CIEL」(空にかかるアーチ)といいますが、その「空CIEL」を「ブドウVIGNE」に代えて、名づけられました。ブドウ栽培とワイン醸造に関する情報を集積する、地域のワイン農業を支えるワイナリーとして、また、気軽に試飲や見学ができ、ワインとワインづくりについて楽しく学び、語り合うことができる拠点です。