Vol.16 醸造施設の設備を考える
綿密な事業計画を立てて実行することが大切
ワイン造りの資材販売やワイナリー醸造施設設計、果実酒製造免許取得支援など、ワイナリーに関するトータルコンサルティング会社「マザーバインズ」より代表の陳裕達(ちん ひろたつ)さん、増子敬公(ますこ よしひろ)さんにお越しいただき、話をうかがいました。
まずは陳さんから、苗木の生産と調達について。
現在、僕らのようにこれからワイナリー開設を目指して植樹する人や、自社畑を増やすワイナリーが増え、深刻な苗木不足が問題になっています。実際に僕もワイナリーさんから「畑は確保できたけど、苗がないんだよ」と聞くことがよくあります。
そもそも苗木屋が少ないうえに、今までヨーロッパ系ワイン用ブドウの需要があまりなかったので苗木自体、少なかったようです。これからつくっても、育つには時間がかかり、外国から輸入したとしても検疫の関係で許可が下りるまで1年以上かかるそう。まだまだ苗木不足が続きそうです。
また苗木は、台木に穂木を接いでつくるのですが、その活着率の低さ(成功率は50%くらいなのだそう)から商売的に難しく後継者がいないという問題も。
醸造機器は、国内製品がほとんどないため、海外から取り寄せることになります。商品に輸送費を上乗せした金額がかかりますが、私はレストランを併設したいと考えているので、さらにお金がかかるのは必然。
開業資金調達も、とても高いハードルのひとつですね。
増子さんからは、醸造所の設計について。
醸造設備はもちろん、空調や照明、エネルギー熱量、排水溝など細かな部分まで、事業計画を立てることが大切なのだそう。アメリカやオーストラリアにあるワイナリーの間取図をいただいたのですが、眺めているだけで妄想が膨らみます。このほか、食品衛生法や税務署(検査)の許可が下りるために準備する必要事項も教えていただきました。
コルクとスクリューキャップの最新動向ついて
大正時代はコルク商、今はワイン関連の設備や備品まで扱っている、きた産業代表取締役の喜多常夫さんにお越しいただきました。
ひと口にコルクといっても天然コルク、圧縮コルク、合成コルクなど色んな種類のものがあります。 天然コルクはブナ科のコルクガシの樹皮からできていて、圧縮性や不浸透性、密着性などが優れ、ギリシャ・ローマ時代か栓として使われていたという説があります。
ワインの歴史上、コルクと瓶が出会っていなかったら、ここまで広まっていなかったのではないかとまでいわれている天然コルクですが、いろいろな問題もあります。
まず、量と価格。 自然のものですから供給量が決まっており、ワインの醸造本数が限られてしまううえに、高額になってしまいます。
もうひとつは“ブショネ”と呼ばれるコルク臭の問題です。 TCA(2,4,6-trichloroanisole:トリクロロアニソール)と呼ばれる物質が原因で、3%~7%くらいの確率でワインに不快なにおいを発生させてしまいます。製造側にとっては大問題です(ただブショネの90%は気づかれずに飲んでいるという説もあります)。
近年これに対しての解明や技術の発達でTCAを除去や遮断した、テクニカルコルクが広まりを見せていますが、コルクからスクリューキャップに移行するワイナリーも増えてきました。とくにオーストラリアやニュージーランドのワインは90%近くがスクリューキャップになっています。ただ、伝統を重んじているということでしょうか、ヨーロッパではあまり普及していません(フランス27%、イタリア17%、ドイツ27%、スペイン9%)。
このほかにも、ガラス栓やプラスチック製、手で空けられるコルク栓など、多様化しています。コルクとスクリューキャップ(など)には色々と論争あるのですが、製造側として設備投資や品質、見た目など色んな観点から考えて決めなくてはいけませんね。
スパークリングワインの醸造設備について
近年、日本でもスパークリングワインの人気が高まっています。金額ベースではシャンパーニュがなんといっても圧倒的なシェアを占めていますが、スペインのカバも増えてきました。国産のスパークリングワインも、2009年は14社が製造していましたが、2015年になると30社と、6年で製造するワイナリーが倍近く増えました。
製法は、伝統的なトラディショナル製法から、炭酸ガスを注入する簡易的なものまで幾つかありますが、 通常のワインと違う設備が必要となります。
例えばトラディショナル製法で造る場合、澱(おり)を鎮めるために使う滓下げ台(ピュピトル)や、その澱を凍らせるネックフリージングなど。また、コルクの形状もワインと違うので、専用の打栓機や栓を止めるワイヤーフーダーなども買わなければいけません。熟成期間が長くなるので、保存する場所も必要です。
私自身、スパークリングワインは好きでよく飲んでいますし、お店でも出していますが、いざつくると考えるとまた違った考えがでてきますね。 とはいえ、泡が立ち上る黄金色の液体はとても魅力的ですし、いつかは自分でも造ってみたいと思います。
著者
成澤篤人
シニアソムリエ
1976年長野県坂城町出身。イタリアンレストラン「オステリア・ガット」ほか長野市内で3店舗を経営。NAGANO WINEを普及するための団体「NAGANO WINE応援団運営委員会」代表。故郷・坂城町にワイナリーをつくるため、2015年春からアルカンヴィーニュ内に設置された日本初の民間ワインアカデミー「千曲川ワインアカデミー」で第1期生として学びます。
日本ワイン農業研究所
アルカンヴィーニュ (ARC-EN-VIGNE)
「ARC」は「アーチ(弧)」を意味し、人と人をワインで繋ぐという寓意を込めています。フランス語で虹のことを「アルカンシエルARC-EN-CIEL」(空にかかるアーチ)といいますが、その「空CIEL」を「ブドウVIGNE」に代えて、名づけられました。ブドウ栽培とワイン醸造に関する情報を集積する、地域のワイン農業を支えるワイナリーとして、また、気軽に試飲や見学ができ、ワインとワインづくりについて楽しく学び、語り合うことができる拠点です。