白澤 卓二(しらさわ たくじ)
1958年神奈川県生まれ。医学博士。順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座教授。日本ファンクショナルダイエット協会理事長。
日本アンチエイジングフード協会理事長。『長寿の里「高山村」長生きレシピ』(アスペクト)、『なぜ長寿の人は赤ワインを飲んでいるのか?』(メディアファクトリー)、『100歳までボケない101の方法』(文藝春秋)など著書多数。1958年神奈川県生まれ。医学博士。順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座教授。日本ファンクショナルダイエット協会理事長。
日本アンチエイジングフード協会理事長。『長寿の里「高山村」長生きレシピ』(アスペクト)、『なぜ長寿の人は赤ワインを飲んでいるのか?』(メディアファクトリー)、『100歳までボケない101の方法』(文藝春秋)など著書多数。
Vol.1 教えて!体に良いといわれるポリフェノールのこと
1.グルメの国フランスで、 なぜ心臓病が少ない?
「フレンチパラドックス」という言葉をご存じですか? グルメで知られるフランス人はバターや生クリームなどを使う、こってりとした料理を食べているにも関わらず、長生きする人が多いのです。一般にバターなどの動物性脂肪をたくさん摂ると、コレステロールが増えて動脈硬化を起こしやすくなります。そこから心臓病になるケースも少なくありません。実際、乳脂肪の消費量が多い国は心臓病による死亡率も高いことが分かっています。それなのにフランスは例外的に死亡率が低い。なぜでしょう。この疑問が「フレンチパラドックス」と呼ばれ、長年研究者たちの関心を引きつけていました。
一つの衝撃的な説を打ち出したのは、ボルドー大学のセルジュ・レヌー博士です。「フランス人に心臓病で死亡する人が少ないのは、毎日赤ワインを飲んでいるからだ」と。1991年、アメリカのCBSテレビでこの説が紹介された途端に全米で赤ワインが爆発的に売れ始め、世界的ブームの引き金となりました。
確かに、フランス同様ワインをよく飲むイタリアも長寿国です。また、世界の主要なワイン産地の多くはWHOの平均寿命ランキングで上位に入っています。そういえば、長寿世界一でギネスブックに載り、122歳まで生きたフランス人女性はワインの名産地で生涯を過ごし、赤のポートワインを好んでいました。赤ワインや赤のポートワインには、抗酸化力があることで知られるポリフェノールが多く含まれます。どうやら赤ワインと長寿の間には深い関係があるようです。
平均寿命ランキング・男女国別順位・WHO世界保健統計2012年度版
平均寿命(男女) 2009年
順位 | 国名 |
---|---|
1位(83歳) | 日本、サンマリノ |
3位(82歳) | イタリア、アンドラ、オーストラリア、アイスランド、イスラエル、モナコ、シンガポール、スペイン、スイス |
3位(82歳) | フランス、カナダ、キプロス、ルクセンブルク、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、スウェーデン |
20位(80歳) | オーストリア、ベルギー、フィンランド、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、 マルタ、韓国、イギリス |
平均寿命(男性) 2009年
順位 | 国名 |
---|---|
1位(82歳) | サンマリノ |
3位(80歳) | 日本、オーストラリア、アイスランド、イスラエル、スイス |
7位(79歳) | イタリア、アンドラ、カナダ、ニュージーランド、ノルウェー、シンガポール、スペイン、スウェーデン |
15位(78歳) | フランス、オーストリア、キプロス、ドイツ、ギリシャ、クウェート、ルクセンブルク、マルタ、モナコ、オランダ、カタール、イギリス |
平均寿命(女性) 2009年
順位 | 国名 |
---|---|
1位(86歳) | 日本 |
2位(85歳) | フランス、アンドラ、モナコ、サンマリノ、 スペイン |
7位(84歳) | イタリア、オーストラリア、アイスランド、シンガポール、スイス |
12位(83歳) | オーストリア、 ベルギー、カナダ、キプロス、フィンランド、ドイツ、ギリシャ、イスラエル、ルクセンブルク、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、韓国、スウェーデン |
2.活性酸素から体を守る ポリフェノールの力
「フレンチパラドックス」が引き起こした赤ワインブームで、ポリフェノールの存在も広く知られるようになりました。ポリフェノールとは植物が持つ色や苦みの成分の総称です。例えばぶどうの皮に含まれるのは、ポリフェノールの中でもアントシアニン、フラボノイド、レスベラトロールなど。種に含まれるのは、カテキン、ケルセチン、タンニンなどです。なぜポリフェノールが注目されるのでしょう?理由は抗酸化力にあります。私たちが呼吸で取り込んだ酸素は、血液中のヘモグロビンと結合して栄養素をエネルギーに変えるために消費されます。このとき、一部は体に悪影響を及ぼす活性酸素に変わりますが、体内にある酵素の働きで毒性が消されます。こうした抗酸化力は人間に生まれつき備わっていますが、40歳を過ぎるころから急速に衰えていきます。また、大気汚染、紫外線、喫煙、食品添加物、ストレスなどでも活性酸素が発生します。その結果、細胞が酸化してシミや皺を作ったり、細胞の正常な働きを失わせ、動脈硬化やがん、糖尿病、認知症などを引き起こすとされています。つまり赤ワインのポリフェノールは、老化や病気を引き起こす元凶の活性酸素から、体を守る頼もしい味方というわけです。
3.エイジングケアの点から 注目が集まるレスベラトロール
健康に役立つポリフェノールですが、そのなかで最近特に注目されているのが、赤ワインに豊富に含まれるレスベラトロールです。世界には100歳を超えても健康で頭脳明晰な長寿者がいます。この人たちにはいわゆる「長寿遺伝子」が働いていることが、数年前から分かってきました。長寿遺伝子自体は誰でも持っているものですが、普段は働かない状態、オフになっています。老化を防ぐには、オンにしなければなりません。
オンにする方法の一つは、カロリー制限です。ただし飽食の時代に厳しいカロリー制限を長く続けるのは困難なことも事実。もう一つの方法がこのレスベラトロールを摂ることなのです。さまざまな動物実験では、レスベラトロールの投与でいずれも寿命が延びる結果が出ています。特にハーバード大学医学部で行われた実験では、高カロリー食で寿命が短くなるはずのマウスにレスベラトロールを与えると、普通食のマウスと変わらないほど寿命が延び、世界の研究者の話題を集めました。
レスベラトロールはサプリメントで摂る方法もありますが、まだ人間を対象にした実験は少なく、長期摂取の有効性や安全性は明らかにされていません。ここはやはり、紀元前から飲まれてきたワインで摂る方が安心でしょう。いかがでしょう。気分をリラックスさせ、家族や友人たちと囲む食卓を楽しくするワインを適度に味わいながら、健康で長生きできる人生を目指してみては。